著者:八田 達夫
販売元:日本経済新聞出版社
(2012-12-20)
★★★☆☆
民主党政権が打ち出した電力自由化や発送電分離は「悪い電力会社をこらしめる」という選挙向けキャンペーンなので、自民党政権では見直されるだろう。通信自由化でも同じような議論があったが、問題は経営形態ではなく、それによって電力のコストが下がるかどうかという結果である。
著者のいうように電力会社の地域独占が競争原理を阻害し、資源配分の効率を悪化させていることは明らかである。しかし自由化して、電気代が上がるのでは意味がない。電力会社のもつインフラを分離したら、参入する企業が出て来て競争が起こるのだろうか? 料金を自由化したら、規模の経済において圧倒的にまさる電力会社が新電力を圧倒してしまうのではないか?
残念ながら、本書はこうした疑問にほとんど答えていない。送電網を開放してスポット市場を導入し、「ネガワット入札」制度を導入するなどの改革や、停電を防ぐための送電制御など、技術的な制度設計に終始し、それによって規模の経済の喪失を埋め合わせることができるのか、本当に競争が起こるのかという問題は論じられていない。
原子力についての言及はわずかしかないが、本書も指摘するように特定のエネルギーに補助金を出す政策は有害無益であり、原子力や再生可能エネルギーへの補助金はやめるべきだ。地球温暖化の対策としては、炭素税によって市場に中立的な形で負担を求めることが望ましい。
本書もいうように、あらかじめ「電源比率」を決めるエネルギー政策はナンセンスであり、地球温暖化や原発事故の保険料などを内部化して社会的コストを考えるべきだ。もうそろそろ原発恐怖症を卒業し、経済力の落ちてゆく日本でどうやって安いエネルギーを長期的に確保するかを議論してはどうだろうか。