日本経済新聞電子版に「テレビ局化するユーチューブ」という記事がありました。
ユーチューブがチャンネル編成化し、動画を増やし、広告を強化する、という3つの策についての記述です。
FM東京から電話がかかってきまして、ラジオ番組用にこれに関してコメントを求められました。あわてていたので、間違いもあるかもしれませんが、できるだけ平易にと思って話しました。メモしておきます。
1 この記事に思うことは?
総合編成のテレビ型ビジネスになってきました。2005年のサービス開始から8年。PCベースのメディアがテレビに本腰を入れてきました。テレビ業界との競合が激しくなると同時に、連携も強まるでしょう。関係業界の動きに注目です。
もう一つのポイントは、スマホ対応。
この数年、世界のメディアは構造変化の波に飲まれています。一つはユーチューブのようなソーシャルサービス。みんなが参加して作るメディアが普及したこと。そして、クラウドネットワーク。ブロードバンドと地デジで、通信も放送もデジタルネットワークになったこと。もう一つがスマホに代表されるマルチスクリーン。一人が数台のPCを使う。ケータイはスマホというPCになり、テレビはスマートテレビというPCになる。
ユーチューブの動きは、この流れに対応する戦略です。
2 背景は何か?
必然です。PCベースでスタートし、ここ5年でスマホやタブレットが普及、そしてこの1、2年はテレビのスマート化がホットになってきた。このメディア変化に対応するものです。また、広告最大の領域であるテレビ広告2兆円にもビジネスの焦点が定まる環境になってきた面もあります。
それ以上に競争の激化があります。アメリカのテレビ局が作った映像配信サービスhuluや映画配信のNetflix、さらにアップルも力を入れてきます。日本でもテレビ局がサービスに本腰を入れてきました。サービスを束ねるプラットフォームの座が争われています。いち早くそれを確立させるということでしょう。
3 TBS、テレビ朝日、フジテレビなどがユーチューブで動画配信を始めた。今後、テレビとネットの関係はどうなる?
テレビとネットの連携、通信と放送の融合は、20年以上議論がされてきたものの、日本は動きが遅かった。アメリカはユーチューブが急拡大した2006年に一気に進みました。NHKオンデマンドが始まったのは3年後。スピード感には3年ぐらい開きがありました。
でも、ここに来てテレビ局は踏み込んでいますし、ラジオもradikoやどこでもFMなど、もっと踏み込んだ動きを見せています。
テレビ局にも事情があります。
地デジが完成しました。テレビを買い換えさせられました。でも、正直どうよ?キレイにはなったけど、すごくよくなったか?デジタルならではの、便利で面白いサービスが求められているわけです。ネットもスマホも使おう、という方向です。
競争も激しくなってきました。かつては黄金のビジネスだったので、ネットに手を出すのは戦略から外れていたのですが、広告市場は縮小し、ビジネスをネットやソーシャルメディアに持って行かれる。守りから攻めに転ずる段階になりました。
4 利用者が視聴した広告だけ広告主に課金する「成果報酬型」は機能する?
すると思います。広告主が賢くなっています。もう視聴率だけでは簡単に広告を出しません。どういう人が見ているか、視聴質も問われます。テレビCMを引き上げてネットだけでCMを打つ、別手段のプロモーションを行う、という企業も増えていますし、特に国際的な企業にはそうした傾向が強い。見られた時間や回数がきめ細かくわかる手段は広告主に寄り添ったものです。
5 テレビ離れにどう作用するか?
わかりません。ただ、何もしないとテレビは死ぬ、ということは明らか。テレビ局がよいサービスを開発できるかどうかです。
テレビ画面は見られ続けるでしょう。でも、テレビ番組をリアルタイムで見ることは減り、マルチスクリーンを同時に使うことは増えます。録画した番組、ネットのコンテンツ、ソーシャルサービスなど、多様化が進む中で、テレビ局のコンテンツがどれだけの位置を占めるか。
悲観はしていません。日本のテレビは面白い。力があります。
ラジオもそうです。radikoやケータイ配信によって、それまでラジオ離れだったリスナーが、ラジオを再発見して、面白いという評判が少し戻ったといいます。それはラジオ局がネットにチャレンジしたからです。テレビもそうではないでしょうか。
テレビは番組だけでなく、電波もあります。デジタル化したものの、同じように番組を送っているだけで、うまく使えていません。新聞、雑誌、ソーシャルメディアなど、デジタル回線としてもっと色んなことに使えるんです。ビジネスを広げられます。そちらにも力を入れてもらいたいですね。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年3月7日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。