アメリカから見たアベノミクス

池田 信夫


きのうのアゴラチャンネル増刊号は、クルーグマンにもよく引用される著名ブロガー、ノア・スミスをゲストに迎えて、アメリカ人にアベノミクスがどう評価されているかを聞いた。


ノアのアベノミクスに対する評価は高く、「人々の気持ちをポジティブにしたのはとてもいいことで、海外の日本を見る目が変わった」とほめていたが、インフレ目標の実現はむずかしいという。「インフレ予想は過去に強く拘束されるので、日銀だけで2%のインフレを実現するのは無理だ」という。「大事なのは成長の結果としてインフレになることで、インフレだけ起きても年金生活者が怒るだろう」。

最優先の政策は、TPPなどの対外開放でアジアとの連携を強めることで、前の安倍政権のとき日本経済が回復したのも、中国への輸出や海外生産だった。同じぐらい大事なのは規制改革で、ゾンビ企業を延命する規制はやめ、バカげた公共事業もやめるべきだ。この点で、安倍首相は党内の古い勢力を抑えきれていないのではないか。

クルーグマンは欧米の財政タカ派と闘っているのでアベノミクスをほめているが、あれは政治的メッセージで、日本の財政状況は危険だ。日本人はまじめなので、今すぐハイパーインフレが起こるとは思わないが、老人と若者の不平等は信じられないほど大きい。若者は反原発でデモするより、今の年金制度に反対する暴動を起こすべきだ。有権者の過半数を老人が占める国会では、永遠に改革はできない。

おもしろかったのは、番組のあと居酒屋でノアが「アメリカ人は日本人よりconformistだ」と言ったことだ。「日本軍についての本を読むと、共同作戦で陸軍が海軍をだましたり、二・二六事件では青年将校が上官を殺したりしているので驚いた。米軍では上官の命令は絶対で、兵士が上官にさからうことはありえない」という。

これは私の今度の本のテーマで、日本人は実はアメリカ人より民主的でボトムアップなのだ。天皇は最高権威だが、何も決めることができない。意思決定の主体は最下層のムラで、そこで決まった「空気」は軍の命令より重いから、上官も大臣も殺す。それが日本なのさ――というと、意外なような納得したような顔をしていた。