ブラック企業が社会を豊かにする

生島 勘富

辻先生にご意見を頂戴したので、もう少し、ブラック企業について考えてみたい。


■安定期以外はブラック企業

現在の安定期の企業を見ても、創業期~成長期に、今の基準でブラックじゃない企業なんて存在しません。

ぶっちゃけて言えば、ソニーも、ホンダも、成長期の間は滅茶苦茶なブラック企業。
ソニーにも、ホンダにも、(古い話ですが)「プロジェクトX」で取り上げられるような美談は数多くありますが、冷静に担当者目線で見れば、美談であっても全てブラック物語です。
更に「千三つ」の成功は美談になりますけれど、美談ができれば同じことを求められるわけで、取り上げられもしない残りの997は、ただだた、担当者が苦しんだだけで出世も出来ず終わっているものがほとんどです。

そういう昔話を、「昭和的精神論」と片づけがちですが、現在、ブラック企業と呼ばれている企業の多くが似た精神論を言ってます。そういう企業は、創業者が健在で、飽くなき成長を求めている企業でしょう。なぜかというと、決して「昭和的」ではなく、単に成長期の企業の特徴だからです。
昭和の終わりから平成の初め頃(バブル崩壊前後)には、安定期の企業ばかりが目立っていたので、そういう成長期の企業の特徴を「昭和的」と感じるだけでは?

成長期の企業から見れば、安定期に入った大企業は強大ですから、それに対抗するには他に策は少なく、成長期の企業が、前を行く安定期の企業を倒そうと足掻くと、気づけばブラック企業になってしまいます。

もちろん、企業にとって成長期かどうかは、会社の規模は関係がありません。中小企業でも、「今いる社員が幸せなら、それで良い」という方針になっている企業の多くはブラック企業ではないです。貪欲に成長を続けようとする企業ほど、昭和っぽい精神論に見え、「現状維持で良い」というような守りに入った(安定期の)企業ほどスマートに見えるだけです。

また、衰退期に入れば、「追い出し部屋」なるものが作られたり、新卒採用が絞られたりして、やっぱり別の意味のブラックなことをするようになります。

つまり、ブラック企業というのは決して特殊ではなく、単純に安定期以外の企業はブラック企業になるわけです。

ソニーやホンダを出さなくても、日本の既存の大企業にも成長期には多くのブラック物語がありましたが、戦後からの復興という特殊な状況でしたから、「ブラック」という視点で語られることはなく、美談として語り継がれ、高度成長の時代に、多くの企業が同時期に安定期を迎えるということになりました。

その結果、「安定したサラリーマンになるのが当たり前」と、非常に多くの人が勘違いしている状態になってしまった。
余談ですが、私は「サラリーマンになりたい」という考えこそ「昭和的価値感」だと思いますけど(苦笑)

現在、これほどもまでに「ブラック企業」と騒がれるのは、「同時期に安定期を迎えた企業が多い」ために、時間経過によって、「同時期に衰退期を迎える企業が多い」ということに繋がってしまった。
そのために安定期の大企業が減り、新陳代謝として出来てきた企業、つまり、創業期~成期の企業が目立って見えるので、「ブラック企業ばかり」と感じてしまうのではないでしょうか。

■労働力ダンピングではなく収斂

トラックの運転手が

「俺は今、牛丼屋に東南アジアで切ったタマネギ運んでんだぞ。
いいか?
今の日本はタマネギを切る仕事すらねーんだぞ?」

と語るというコピペツイートがありますが、(実際には東南アジアではなく今のところ中国でしょう)これは事実として起きています。
居酒屋で出される焼き鳥の串刺しなど、「そんなことまで……」と思える作業まで海外で行われ、国内向け居酒屋であっても海外の安い労働力との競争は行われています。
更に、辻先生の仰る通り、当然のように機械との競争もあります。

長い目で見れば労働力ダンピングなどではなく、労働報酬が国際的な水準に平準化(収斂)されて行く過程に過ぎないでしょう。

成長期の企業は、激しい競争を受け入れ非常に変化の速度が速い。特に飲食業界では雇用の流動性が高いため、平準化(収斂)急峻に起きますから、ダンピングのように見えるだけではないでしょうか。

■ブラック企業が社会を豊かにする

日本では衰退期の企業が淘汰されずに残るという別の問題があるのですが、それを除けば、成長期の企業がブラックになるのは、将来、安定的な優良企業になるためで、結果的にはブラック企業が社会を豊かにするのです。

「ブラック企業だ!」と、成長期の企業の足を引っ張って成長を止めれば、小粒な安定期の企業しかできなくなるわけで、それでどうやって社会を豊かにするのでしょう?

全部の会社に安定期の大企業と同じことを求めて、成長期を潰してしまっては、社会が豊かになるはずがないのですが……。

もちろん、衰退期の企業の淘汰が進まないという問題は、別途、何とかしないと行けない問題ですけれど。

株式会社ジーワンシステム
生島 勘富
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