吉原というテーマパーク

池田 信夫

橋下市長の発言で、また慰安婦問題が蒸し返されているが、慰安所が日本軍の「必要」で開設されたというと、かえって誤解が再燃する。実際の慰安所は民間の業者が軍について行ってつくったもので、実態は国内の公娼とそれほど違わない。ただ私は橋下氏のいいたいことも少しわかるので、娼婦が単なるセックス処理業ではなかったことも紹介しておこう。

本書は江戸時代の吉原の生活を紹介したものだが、著者も断っているようにそれは貧しい農村の娘が身売りされて来る所で、遊女は見かけは華やかだが悲惨な仕事だった。10年ぐらいの年季が明けるまでほとんど無給で客を取らされ、年季明けまでに性病で死ぬ遊女が多かったという。


ただ江戸時代の都市は、農村で食い詰めた人々が集まる場所で、疫病がしょっちゅう流行し、江戸でも死亡率は高かった。「苦界」とか「悪所」といわれた吉原に役者や戯作人が集まり、浄瑠璃や浮世絵などの洗練された文化が生まれた。吉原は江戸最大の観光地であり、一大テーマパークだった。その中心は現在の台東区千束だったが、今でも千住から鶯谷に至る広い地域にそのなごりは残っている。

明治時代になって人身売買は公式には禁止されたが、実態はあまり変わらなかった。性病の流行を防ぐために「公娼」として公的に管理され、健康診断なども行なわれるようになった。敗戦によって公娼は廃止され、遊郭は「特殊飲食店」と改称した。警察がこの地帯を赤線で囲んだことから、遊郭を「赤線」と呼ぶようになったが、1958年に売春禁止法ができて「吉原」という地名は東京から消滅した。

しかし今の風俗営業に人身売買はないので、売春を法的に禁止する根拠は弱い。フリードマンなど多くの経済学者が「売春を非合法化しているために犯罪組織の資金源になっているので、合法化して公的に管理すべきだ」と主張している。

日本では、カジノ合法化論はあるが、さすがに売春合法化論はないようだ。しかし日本のアダルトビデオがアジアを席巻していることでもわかるように、日本人はこの分野では長い伝統とすぐれた作品があるので、吉原の文化を「クール・ジャパン」の一つとして再評価してもいいのではないだろうか。

追記:Wikipediaによると、オランダをはじめ、ヨーロッパでは合法化がかなり進められているようだ。