処方監査は機械化できる

井上 晃宏

技術進歩により、調剤業務が、実質的には薬剤シートをカウントするだけの名目的な仕事になってしまった薬剤師たちが、自分たちの存在価値と主張しているのは、処方監査である。

医師の書く処方箋の数%にはミスがあり、薬剤師は、調剤時に、それを拾って訂正させているから、薬剤師には存在価値があるというのである。

これは事実だ。しかし、それだけでは、薬剤師業務の正当化には十分ではない。なぜなら、処方監査は、容易に機械化できるからだ。


処方箋は、現在、大半の施設では手書きではなく、専用のコンピュータから出力されるようになっている。桁を間違えたり、併用禁忌の組み合わせを入れると、アラームが出る。

システムによっては、事前登録された患者情報を使って、もっと手の込んだ検査をすることができる。たとえば、腎機能数値や肝機能障害の有無や性別年齢体重によるチェックである。病名登録をすることで、診療ガイドラインとの照合も可能だろう。

医薬分業の根拠とされている、複数医療機関からの処方箋の突き合わせも、「お薬手帳」の電子化によって、自動化できる。処方時に、過去の処方歴と照らしあわせて、自動的にエラーを拾えるから、使う薬局を一つにまとめる必要がなくなる。

処方を完全に機械化し、お薬手帳を電子化するだけで、薬剤師が拾っているミスは、ほとんど消滅する。

自分は、実務を行なっている薬剤師たちに、「処方監査の機械化」について尋ねてみたが、重大な困難があるという回答は一つもなかった。ただ、現実にシステムがないから、手作業で監査をしているだけなのだ。

コンピュータでは拾えないミスもあるが、人間ではスルーしてしまうミスもある。少なくとも、コンピュータを使えば、処方監査のケアレスミスはゼロとなる。コストパフォーマンスを考えるなら、まず、処方監査を機械化をするべきであり、予算に余裕がある場合にのみ、人間を使うべきだ。

現在は、大学で6年も教育を行い、私立だと1200万円にもなる学費を支払わせて養成した技術者を、薬局のカウンターに並べ、手作業で処方箋のエラーチェックを行なっている。毎年1%近く生産年齢人口が減少していく日本で、こんな人的資源の浪費は許されない。

井上晃宏(医師、薬剤師)