東京商工リサーチが上場企業の役員報酬1億円以上(6月28日17時現在)を、167社・292人と発表した。昨年とほぼ同数だが、3月期決算の上場企業は2,484社ということなので、企業割合にして7%弱の上場企業で1億円プレーヤーが発生していることになる。
2010年3月期から1億円以上の報酬を得た上場企業役員の公表が義務付けられたので、今年で4年目だ。
ただし、これは3月決算の会社だけの数字なので、全上場企業では400名程度。一方で、この役員報酬額には退職慰労金も含まれているので、純粋な年収で1億円以上の役員は300~350名程度といったところだろうか。
これが多いか、少ないか?
まず、上場企業の役員は、東洋経済新報社発行の役員四季報によると、約40,000名。ということは、上場企業の役員になったとしても、100名に1人にも満たない確率でしか1億円プレーヤーが誕生しない。
上場企業といえば、日本に存在するといわれる法人数250万社の中の0.1%程度の超エリート優良企業(とは言えない会社も存在するが)。その中で役員にまで上り詰めたスーパービジネスマン(とは言えない人も存在するが)の人たちである。そんなスーパービジネスマンになれたとしても、その中で100分の1人も1億円プレーヤーは誕生しないのである。
ちなみに、プロ野球選手の中で1億円プレーヤーは、昨年度78名という。こちらも日本のスポーツマンの中ではスーパーエリートには違いないが、球団の親会社の社長でももらってないほどの年収を、そのチームのファンしか名前を知らないような地味な選手(誰とは言わないが)が貰っていると考えると、社長はハラが立たないのだろうか。
また、よく言われる欧米企業との報酬比較だが、タワーズワトソンという人事コンサルタント会社が調査した売上高1兆円以上の大企業CEO役員報酬比較調査(日本取締役協会HPより)が分かりやすい。この調査によると、ザッとアメリカの大企業経営者の平均報酬は10億円、イギリスは5億円、日本は1億円となっている。
まあ、アメリカの場合は、業績を大幅に悪化させているにもかかわらず、最初の契約のお陰で10億、20億もらって他社に転職していく経営者屋さんも少なくないので、行き過ぎた社会だとは思う。しかし、1兆円企業を預かり、業績を改善させ、株主価値を期待通りに引き上げた経営者であれば、何億円もらおうが何ら問題ない。報酬の妥当性を判断するのは、他の誰でもなく『株主』だからである。経営者は、株主が納得する働きをしてくれるかどうかこそが重要なのだ。
翻って日本の役員報酬。
本来、株主から見て十分な企業価値の向上を果たした経営者であれば、10億円は行き過ぎとしても、1億円でも、2億円でも問題ないだろう。にもかかわらず、1億円以上の公表義務のおかげで、実際に8,000万円とか9,000万円に抑える経営者は少なくない。やはり、日本では、報酬の問題であまり目立ってトクなことはないからである。
そこで、1億円以上の公表義務を3億円以上に引き上げることを提案したい。
3億円に根拠があるわけではないが、こうすれば「上場企業の社長になれば、1億円以上の報酬が堂々と取れる」社会になれる。役員が報酬に見合った働きができているかどうかの判断は、各社で報酬委員会やそれ近い組織を設置するなどして、チェックすればいいだろう。
アメリカはヒドすぎるが、日本も逆の意味でヒドすぎる。
山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”