一昨日のブログ、「アメリカ金融の量的緩和からの離脱の難しさ」を更にずっと考えていました。これはやはり、副作用を伴う可能性がありうるかもしれない、と。そしてそれは日本にどういう影響を与えるだろうか、と。
私は二つの小さな心配をしています。
ひとつは新興国からの資金の逃避が思った以上に世界景気を混乱に導かないか、という懸念であります。報道でもしばしば見受けられるように一部新興国、例えばブラジル、インド、インドネシアなどの国々の通貨が急落しています。インドルピーは対米ドルで一時65ルピーを超え、史上最低となりました。昨年10月ごろは52ルピー程度でしたから25%も切り下がっています。ブラジルでは2.36レアルで今年5月の1.95レアルの水準から21%、インドネシアルピーは10775でやはり今年5月からは12%の下落となっています。
これら新興国の通貨下落は物価高に直面しやすい傾向があり、結果として国内景気の鈍化に繋がります。たとえばインドはここ数年大体9%台の経済成長率でしたが2013年は5.5%に下方修正しています。新興国の経済成長率の鈍化は世界の消費をぐんと押さえ込む結果になり、特に日本の場合、中国から東南アジア諸国へのシフトが大きく進んだ中で影響をもろにかぶる可能性があるのです。
日本は尖閣に端を発した「プラスワン」の発想がむしろ、東南アジアへのシフトという形で大きく舵を切りました。結果として日本の経済が東南アジア経済に左右されやすい構造になりつつあるということです。東南アジア経済は金融緩和の恩恵を受け、高利回りの国債に目が向けられ、海外資金が流入しました。結果としてそれらの国では内需拡大が大きく進んだわけです。ところがここに来てその国債市場からの資金の蒸発はエマージングマーケットからの資金流出という結果を生み、それらの国々の株式も激しい下落に見舞われているのです。
金融緩和で恩恵を受けたのはリーマンショックや欧州危機から離脱しつつある欧米とデフレからの脱却を目指す日本であって、新興国は「踊らされた」という批判が先々ないとは限らない状況に見えるのです。つまり、アメリカが量的緩和からの離脱についてよほどうまくやらないと世界が大混乱に陥ることを頭の隅においておく必要がありそうなのです。
私のもうひとつの心配は日本が進める異次元の金融緩和のポリシーに逆風が吹かねば良いが、ということであります。これもアメリカ次第なのですが、徐々に緩和のスピードを緩めるコントロールを誤れば量的緩和のポリシーそのものが批判の矢面に立つこともありうるということです。
たとえばブルームバーグの記事に「米連邦準備制度理事会(FRB)による債券購入は成長刺激の手段として政策当局者が考えているほどは効き目がない。ノースウエスタン大学のアルビンド・クリシュナムルティ教授とカリフォルニア大学バークレー校のアネット・ビッシング・ヨルゲンセン教授が23日発表の論文で指摘した。」とありますが、世の中、うまくいかなくなると必ず今まで聞こえなかったボイスがさも当たり前の論調のようになり、人々のマインドが一気に変化するきっかけを作るのです。
アメリカでさえ難しい量的緩和からの脱出は日本も欧州も皆、同じ運命を辿ります。つまり、永久に緩和し続けることはないのでそれを止めた時の副作用にどう対応するか、この答えは誰もわかりません。
金曜日に発表されたアメリカの新築住宅販売件数が大幅に下落したことはなぜでしょう? たった一回の統計では判断できませんが、経済回復の懐はさほど深くなく、長期金利上昇傾向に伴う住宅ローンの上昇を受け、買いの手が一気に萎んだということであればこれは実に頭の痛い問題なのです。
世界経済は秋にいつも波乱が来るとされています。リーマンショックもブラックマンデーもいつも秋なのです。欧州危機もそうでした。とすれば、今年の秋の波乱要因の可能性はこの辺に見出せるかもしれません。FRBは量的緩和離脱時期を計っていますが多くのアナリストが期待する9月からのプラグアウトがあるとすればシートベルトをもう一度しっかり締めなおした方がよい気がいたします。
そして日本を取り巻く環境にも案外脆弱なところがある、ということをチラッと気にしておくべきかもしれません。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年8月26日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。