中国共産党政権の威嚇政策の敗北 --- 長谷川 良

アゴラ

共同通信によると、中国外務省の洪磊副報道局長は5日、オーストリア外務省当局が中国に対して「チベットは中国の一部であり、チベット独立のいかなる主張や分裂行為も支持しない」と表明したという。


▲中国共産党政権のチベット人弾圧を訴える亡命チベット人たち(2012年2月8日 ウィーン市内で撮影)


チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が昨年5月、オーストリアを訪問し、ファイマン首相らオーストリア政府首脳たちと会談。これに対し中国側は当時、抗議談話を出しており、中国側は今回の報道文の発表を通じて、オーストリアが「反省した」とアピールしたい狙いがあると受け取られている。

そこで当方はオーストリア外務省アジア部中国担当官に電話して中国外務省の発表内容について確認した。担当官は「中国外務省の報道文の通りだ。ただし、中国を唯一の主権国家という中国政策は欧州連合(EU)の政策であり、わが国の独自政策ではない」と強調する一方、「オーストリア側は中国当局にダライ・ラマ14世と会談したことを謝罪した、という一部メディアの受け取り方は間違いだ。どうして謝罪しなければならないのか」と不満を表明した。

ダライ・ラマ14世は昨年5月17日から26日までオーストリアを10日間訪問した。その期間、ファイマン首相はラマ14世と朝食を一緒にし、シュビンデルエッガー外相は同14世から白いスカーフを贈呈されるなど、親しく交流した。

それに対し、中国は今年に入りオーストリア外務省を脅迫し、「ダライ・ラマ14世と会談したことは中国は一国という事実を無視するものであり、中国国民の心情を傷つけた。ダライ・ラマ14世は宗教という名でカムフラージュした分離主義者だ」として、「オーストリアは謝罪を文書で提示すべきだ」と要求し、「謝罪しない場合、ウィーン市のシェーンブルン動物園に貸した2頭のパンダを引き取る」と強迫したのだ(「『パンダ』か『ダライ・ラマ』か」2013年6月3日参考)。

オーストリア側が中国一国政策を確認しただけで、ダライ・ラマ14世の訪問に対しては「謝罪する必要性などまったくない」という立場を堅持しているとすれば、ウィーン市のシェーンブルン動物園のパンダの運命はどうなるのか。

そこで動物園に電話して質問した。動物園側は「動物園と中国間の10年間パンダ貸借契約は今年の3月で切れ、新たな10年間契約の交渉中だが、われわれが北京に出向くか、中国側がウィーンを訪れ、新しい10年契約に調印するか決定できないので、調印日程はまだ決定していない。現在は正式調印までの暫定契約期間という状況だ。近い将来、契約が正式に延長されることを期待している」という。

どうやら、中国側はパンダを則帰国させる意向はないようだ。ちなみに、同動物園では2頭のパンダと今年8月14日に生まれたベビー・パンダの3頭がいる。動物園を訪れる人々のアイドルとなっている。

それでは、なぜ中国外務省副報道局長の報道文がわざわざ発表されたのか、という疑問が残る。オーストリア側はダライ・ラマ14世の訪問を謝罪していない。ただ、EUの対中国政策を確認しただけだ。中国側はパンダを直ぐに引き取る考えもない。とすれば、中国側の要求は成就していないことになる。

北京側は、オーストリアの対中国政策を確認するという最低限度の表明を受けて、昨年5月のダライ・ラマ14世のオーストリア訪問問題で生じた両国関係を正常化しようとしているわけだ。明らかに、中国共産党政権の威嚇政策の敗北だ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年9月7日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。