米国よ、カムバック! --- 長谷川 良

アゴラ

在ウィーン国際機関米国政府代表部ジョセフ・マクマヌス大使(Joseph MACMANUS)が5日、国連工業開発機関(UNIDO)本部を訪問し、李勇新事務局長と会談したことがこのほど明らかになった。米国が1996年、UNIDOを脱会した以来、米大使がUNIDO本部で事務局長と会談したのは初めて。

関係者の話によると、李事務局長とマクマヌス大使は米国とUNIDOの協調、将来のUNIDO再加盟問題などが話し合われたという。


米大使がUNIDO再加盟を示唆したかは不明だが、米大使がUNIDO事務局長と会談したこと事態が異例だ、と受け取られている。

米国は1996年、オーストラリアについてUNIDOの腐敗を理由に脱会したが、その後、カナダ、英国、フランス、ニュージランド、オランダなど欧米主要国が次々と脱会、ないしは脱会の意志を表明した。

米国は当時、「UNIDOは腐敗した機関」として1994年から96年まで約6900万ドルの分担金未払いを残して脱退したが、未払い金は今日まで払われていない。

ウィーン外交筋は「米国がUNIDOの再加盟を検討始めた主因は、事務局長に中国元財務次官の李勇氏がUNIDO事務局長に就任したからだろう」と見ている。

当方はこのコラム欄で「UNIDOは開発途上国の工業開発を支援する専門機関だ。その主要エリアはアフリカ諸国だ。その点、中国はアフリカ諸国に久しく根を下ろして活躍している。アフリカ大陸には既に100万人の中国人が働いている。中国の狙いはアフリカ大陸の豊富な地下資源だ。UNIDOのトップを握った中国はこれまで以上にアフリカ開発に関与してくるだろう。米国がUNIDOへの関心を呼び起こしてきた背景には、アフリカ大陸の資源を中国に一人占めさせない、という警戒心が働いているはずだ。米国はUNIDO再加盟の可能性を視野に入れているはずだ」と書いた。どうやら、その予想が当たりそうな雲行きだ。

なお、米国は、ペルーの首都リマで12月2日から開催されるUNIDO第15回年次総会にオブザーバーの資格で参加する、と見られている。ちなみに、米国は2003年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に再加盟している。

【短信】エジプト元大統領選候補者のバラカートさん

中東問題専門家アミール・ベアティ氏の紹介で先日、ウィーン市内のレストランでフセイン・バラカート(Hussein Barakat)さん(写真)と話す機会があった。昨年5月のエジプト大統領選に出馬して健闘したが、6月の決戦投票には進出できなかった人物だ。

ウィーンを拠点に事業するビジネスマンが出馬したとして、当時欧州メディアでも紹介されたことがある。バラカートさんはムバラク元大統領政権時代に政治的迫害を受けてオーストリアに亡命してきた経歴の持ち主だ。

同氏はエジプト軍がモシル大統領を解任したことについて、「軍クーデターではないが、デモ隊に対する軍の行動に対しては支持できない。モルシ大統領も本来の役割を果たすことができず、無力を暴露してしまった」と指摘。一方、「エジプトはイスラム教国だが、国民は自由に信仰を選び、実践できる権利がある。それはコプト正教会に対しても同様だ」と述べ、同国の最大少数宗派にも理解を示した。

「国民はデモをするより、国のため、社会のためにに何か具体的な奉仕をすべきだ。軍は昔からそうだが、その権利維持に固守しているだけだ」と、軍に対して厳しく批判。作成中の新憲法草案に対しては、「エジプトが国際社会に誇ることができる内容でなければならない。イスラム教を国の精神的支柱としながら、民主主義、信仰の自由、人権尊重などを明記した内容であるべきだ」と注文を付けた。バラカードさんはウィーンで生活しながら「祖国のため何か貢献したい」と考える日々を送っているという。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年9月13日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。