ローマ法王が危ない! --- 長谷川 良

アゴラ

オーストリアの著名な神学者、パウル・ツーレーナー(Paul Zulehner)教授は「カトリック教会内の根本主義者らによるフランシスコ法王の暗殺計画が囁かれている」と警告した。同国国営放送で語った内容を日刊紙プレッセが9月14日付で報じた。

▲バチカン法王庁(2011年4月、撮影)


同教授は「教会保守派にとってフランシスコ法王が行おうとしている教会改革は危険水域に達してきた。そこで法王の暗殺を考え出している」という。教授はローマのバチカン法王庁関係者との話の中で「法王暗殺の噂」を耳にしてきたという。

ツーレーナー教授の話でなければ当方はこの種の噂話は余り信頼しないが、牧会学の教授であり、神学界でも知られた人物が真顔で法王暗殺の危機を警告しているのだ。その背景には、考えられない動きが聖職者の中で蠢いているかもしれない。真剣に受け取らざるを得ない理由だ。

教授は「ローマは法王の安全に心を配らなければならない。神が法王を守られることを祈る」と述べ、「どの宗教にも根本主義勢力が存在する。残念ながら、カトリック教会も例外ではない。フランシスコ法王が実施した改革、ないしは表明したバチカン改革は根本主義勢力にとって脅威として受け取られている。例えば、最近の聖職者の独身制の再考だ。また、法王は聖職者の名誉呼称の廃止を決めたばかりだ」という。フランシスコ法王は今年4月、8人の枢機卿から構成された提言グループを創設し、法王庁の改革(具体的には使徒憲章=Paster Bonusの改正)に取り組むことを明らかにしている。

南米出身初のローマ法王は質素と簡素を重視し、バチカンでも法王宮殿に居住せず、ゲスト・ハウスで寝泊まりを続けている。記念礼拝でも信者たちとのスキンシップを重視。ローマ法王の外遊先では通常、法王の車窓は安全のため閉められているが、フランシスコ法王は窓を開けて信者たちに手を振り、時には車を止めて信者たちと語り合うのを好む。法王の警備に当たる関係者にとって、安全対策は容易ではないだろう。

ローマ法王暗殺計画は過去にもあった。最近ではヨハネ・パウロ2世が1981年5月13日、サンピエトロ広場でアリ・アジャ(Ali Agca)の銃撃を受け、大負傷を負った。故ヨハネ・パウロ2世の暗殺未遂事件には多くの謎がある。事件が聖母マリアの「ファティマの預言」の日(1917年5月13日)に起きたことから、バチカン側は2000年、「第3の予言はヨハネ・パウロ2世の暗殺を予言したもの」と公表し、ヨハネ・パウロ2世の暗殺未遂事件がファティマの預言(第3の預言)と密接な関連があったと主張しているほどだ。

ローマ法王に選出されたが、就任33日目で急死した短命法王がいる。ヨハネ・パウロ1世(在位1978年8月26日~9月28日)だ。短命法王の急死の背景には、毒殺説がある。バチカンは当時、パウロ1世の死因を「急性心筋梗塞」と発表したが、新法王がバチカン銀行の刷新を計画していたことから、イタリアのマフィアや銀行の改革を望まない一部の高位聖職者から暗殺されたという説だ。十分な死体検証が行われなかったことから、証拠隠滅という批判の声があったほどだ。

ツーレーナー教授が指摘した「保守派聖職者の中にフランシスコ法王の暗殺を願う勢力が存在する」という話は、一見、突拍子もなく聞こえるが、バチカンの歴史をふり返れば、決して非現実的ではない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年9月16日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。