ランべドゥーザ島沖の悲劇 --- 長谷川 良

アゴラ

イタリアの最南端の島ランペドゥーザ島沖で10月3日、難民約500人が乗った船が火災を起こし沈没した。イタリアのメディアによると、300人以上が犠牲となった可能性があるという。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、難民はリビアを出港したエリトリア人、ソマリア人が多いという。犠牲者の中には多くの子供たちも含まれている。

アフリカ大陸から多数の難民が欧州での仕事を求め、地中海のペラージェ諸島のランべドゥーザ島に殺到し、今回のように途中、ボートが沈んだりして多くの難民が亡くなったが、これほどの多くの犠牲者が一度に出たのは今回初めて。イタリアばかりか、欧州全土に大きな衝撃を投げかけている。

▲ランべドゥーザ島


難民救済に従事しているNGO(非政府機関)の1人の女性は次々と運ばれてくる難民の死体を見て涙を流していたシーンがTVで流れた。島民の中には溺れている難民を救うために海に飛び込んだ者もいたという。犠牲者の難民の多くは人身売買業者に金を払い、新しい希望の地、欧州で働く夢を抱いていたが、途中、地中海の荒波に飲み込まれていった。

アラブ諸国の民主化運動は独裁政権に終止符を打ったが、同時に大量の経済難民も生み出している。難民殺到という悪夢は既にイタリアで現実となっているわけだ。人口約5500人のランべドゥーザ島に数千人の北アフリカ難民が殺到しているのだ。

例えば、北アフリカ・中東諸国の民主改革の先頭を切ったチュニジアから3000人以上の若者たちが2011年2月9日以降、欧州に仕事を求めてランべドゥーザ島に殺到。イタリア政府は同月12日、非常事態を宣言し、「一国で解決できる問題ではない」として、北アフリカ難民の対応について他の欧州諸国の連帯を求めたが、反応がないことから、難民にシェンゲン・ビザを発行。そのため、シェンゲン加盟国は大慌てとなったことはまだ記憶に新しい。

イタリアのナポリターノ大統領は「難民問題は迅速に対応しなければならないテーマだ。それも連帯しなくては解決できる問題ではない」と強調し、イタリア政府だけではなく、欧州諸国の難民政策の修正を要求している。

短期的には、殺到する難民の受け入れ態勢の強化と連帯だが、長期的には、難民を生み出す出身国内の政治的、経済的安定が不可欠となる。

今回のように多くの難民が犠牲となるとメディアは注目するが、時間の経過と共に忘れ去っていく。メディア関係者はアフリカからの難民問題に関心を注ぎ、国際社会にその現実を伝えるべきだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年10月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。