教会に広がる“フランシスコ効果” --- 長谷川 良

アゴラ

独リムブルクのフランツ・ペーター・テバルツ・ファン・エルスト司教(53)は目下、四面楚歌のような状況下にある。その直接の原因は司教区内で教区センター(聖ニコラウス)や司教邸の建設で3100万ユーロの費用を投入していたことが判明し、「贅沢で華美志向」という批判が教会内で湧いているからだ。


▲オーストリアのローマ・カトリック教会のシンボル、シュテファン大聖堂(2013年1月10日、撮影)


同司教についてはこれまでも贅沢、華美の生活をしているという声はあった。例えば、独週刊誌シュピーゲルが昨年、「インドのスラム街視察のために、同司教はファースト・クラス(飛行機代7000ユーロ)で現地まで飛んだ」と報じられ、「貧困の現状を視察する旅行でファーストクラスとは何事か」といった批判が飛び出したことはまだ記憶に新しい。

同司教は10月7日、建設費用を公表した際、「このような巨額な費用が掛かるとは予想外だった」と弁明している。関係者によると、2010年5月から始まった段階では建築費は550万ユーロと予測されていたが、作業が進むにつれて「費用は拡大し、今後もさらに膨らむだろう」という。「贅沢を愛する司教」というラベルを張られた本人は8日夜計画していた自著の発表会を延期している。批判の声がかなり応えているようだ。

司教区内の信者たちの間では司教退陣を要求する署名運動が起き、先月には約4300人の署名が集まっている。神父たちの間でも、同司教区に就任した2008年1月以来、司教の権威主義的な姿勢やその生活に批判的な声が絶えなかった。

独司教会議前議長のレーマン枢機卿は「状況は深刻だ」と指摘し、独教会で大きな影響力をもつミュンヘン大司教区のマルクス枢機卿は同司教に対して批判的なコメントを流している。司教を取り巻く環境はかなり厳しくなってきた。

ローマ法王フランシスコは先月9日、リムブルク司教区の騒動を掌握するためにジョバニ・ラヨロ枢機卿を中心としたバチカン使節団を派遣している。

興味深い点は、同司教への批判は、質素な生活を聖職者に求め、自身も法王宮殿に居住せず、ゲストハウスに住み続けているフランシスコ法王が就任してから一層強まってきたことだ。ベネディクト16世時代には同司教のように華美とはいえないが、贅沢な生活をしてきた高位聖職者は結構多かったが、表だって批判されたという事は聞かない。フランシスコ法王の存在なくしては考えられない現象だろう。‘フランシスコ効果‘とでもいうべきかもしれない。ちなみに、高位聖職者のネガチィブな言動については報道を控えるバチカン放送が8日と9日の両日、短信だが、リムブルクの司教問題を報じているほどだ。

貧者の聖アッシジの名前を法王名としたフランシスコ法王が誕生してから、質素が聖職者の最大の徳と見なされ、贅沢な生活、旅行すらも「不必要な旅は止めて、教区に留まり、信者たちを牧会するように」といわれてきたのだ。リムブルク教区のエルスト司教の蹉跌は他の高位聖職者にとっても看過できない教訓となるだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。