第二の盧溝橋事件を引き起こしかねない尖閣上空の防空識別圏設定 --- 岡本 裕明

アゴラ

中国の尖閣を含む東シナ海への防空識別圏設定は大きな波紋となっています。日本側は安倍首相を始め、各方面から厳しいコメントが出され、中国側の即座の撤回を求めています。一方、中国側は当然の行為としてその撤回を行う気配は今のところ見られません。この小島を巡る争いは再び、世界の注目となるのでしょうか?


1937年7月7日、日中戦争のきっかけとなる盧溝橋事件がおきました。北京郊外の盧溝橋では日本軍、中国軍が双方にらみを利かせ、緊迫した空気がありました。その中、一人の日本兵が行方不明になったことから一気に事が動き、それに反応した中国側の発砲(誤発砲との見方が強い)で双方がぶつかる事件と発展、歴史的には日中戦争の引き金とされる事件であります。この事件は現時点でも必ずしもどちらがどうだったという決定的な確証がなく歯切れの悪い終結だったことがキーではなかったかと思っています。私が気にしているのは日中の間にはこのような双方の言い分が食い違うことを発端とした争いがしばしば起きているということです。

尖閣にしても日本側の論理と中国側の論理はまったく相違しています。ただ日本の報道ではアメリカはさも日本側についているという報道も見受けられますが、アメリカは尖閣の「施政権」について述べたのみであり、「所有権」については明言を避けているのです。日本側の主張どおり、歴史的に日本が所有しているという点は確かに説得力があるのですが、海外から第3者としてどちらの肩を持つ、というクリアなボイスはアメリカを含めない点は留意が必要かもしれません。

非当事者国からすれば南シナ海に浮かぶ小島を巡り世界第2と第3の経済大国が争っているという理解しがたい状況にあるのです。しかも前回、尖閣の問題が生じたとき、世界は両国が戦争でもするのではないかと震撼させたのであります。当然ながらその裏にはたかがこれぐらいのことも当事者間で解決できないのか、という目線や批判もあったという点は含みおくべきです。

もちろん、戦争の歴史を見れば第一次世界大戦に於いてサラエボ事件という非常にスペシフィックな事件があのような大戦に繋がったわけですからその批判は正しくないのかも知れません。が、問題はそれ以降、戦争への反省があったにもかかわらず、国際間のいざこざを扱う機関は限られ、国際紛争解決がスムーズではなかったということでしょう。その点、近年のロシアは国境が不確定だったところについて北方領土以外すべて解決した点において交渉力を見せつけていると思います。

さて、この防空識別圏は双方が譲らなければ将来予期せぬ事故が起きる可能性は否定できません。その際、事故の原因についてお互いがお互いの主張をすればそれこそ盧溝橋事件のように泥沼の関係を築く公算があります。習近平国家主席は日中間の経済関係と南シナ海の統治については「別物」とし、経済関係は徐々に関係を強めていくとしながらも領土問題については断固とした姿勢をとるとしています。

問題は経済問題と領土問題を含む国家間の関係を切り離せるのか、という点ではないでしょうか? 習国家主席の論理は都合が良すぎるように見えます。

一番気をつけなくてはいけないのは日本と中国には折り合えない部分があるということです。折り合えないのだからそこを根本的に解決することは不可能であって、むしろ、そこに入り込むことを未然に防ぐことが国際紛争解決の方法だともいえます。鄧小平氏が日中間の潜在問題の先送りをした意味はそこにあります。とすれば、島のあり方も「さわらずに距離を置く」というスタンスも意味があるものと思います。安倍首相は白黒をはっきりさせたいのかもしれませんが、すべてがクリアカットにできるものではないことは歴史が証明していると思います。

本件は実に憂慮すべき事態かと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月26日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。