北朝鮮最高指導者金正恩第1書記の叔父張成沢国防副委員長が失脚し、粛清されたことが報じられた直後、南米ペルーの首都リマで開催された国連工業開発機関(UNIDO)の第15回総会(12月2日~6日)で北朝鮮代表の駐ペルーのキム・ハクチョル(Kim Hak Chol)大使が3日、15分余りの代表演説をしている。同大使のスペイン語演説のテキスト(原文4頁)を入手したので読者に紹介する。母国で金第1書記の独裁体制が構築された直後の国際社会での北側代表の発言として注目される。
▲UNIDO総会での北代表の演説テキスト(2013年12月10日、撮影 )
演説内容は総会で採択されたペルー宣言への北側の評価、貧困の減少、生産向上、エネルギー・環境対策などに取り組むUNIDOの役割への期待などが中心だが、国内の経済分野では金第1書記が改革促進の姿勢をにじませていることを明らかにしている。
「世界は今日、社会の不均衡、失業、貧困、気候不順などに直面する一方、金融・経済危機に対峙している」と指摘する一方、「一部の国家は制裁と圧力を行使して、他国の主権と権利を蹂躙し、その経済的、社会的発展を阻害している」と、対北制裁を続ける欧米諸国を暗に批判している。
演説後半では国内問題に言及。「わが国の国民は現在、敬愛する金正恩元帥の賢明な指導の下、強力で幸福な社会主義国家の早急な建設のために努力している」、「われわれは『経済強国』という最終目標を掲げ、近い将来、国民経済の発展とその福祉向上を達成出来る文明j国家の建設に尽力を投入している」と強調。そのうえで「安定と平和はわが国と国民にとって非常に価値あるものだ。経済力の構築と生活の質改善は主要目標だ」と決意を繰り返し表明している。
注目すべき点は「安定と平和はわが国と国民にとって価値ある」と述べ、韓国を含む近隣諸国との紛争回避を示唆していること、金正恩第1書記を演説の中で「元帥」とマーシャルの呼称で呼んでいることだ。ちなみに、金正恩氏の名前は演説の中ではこの一回だけだ。
金正恩第1書記は父親金正日総書記から権力を世襲して間もなく2年目を迎える。張成沢粛清や軍部幹部の追放などでは強硬姿勢が見られる反面、経済分野では経済特区を設置するなど積極的に改革を促進する姿勢を見せている。
韓国の中央日報日本語版は10日付の社説で「金正恩は多くの面で強硬派と評価できる。ミサイル試験発射、3度目の核実験、開城工業団地の閉鎖など対米・対南政策で父・金正日より挑発的な姿を見せた。一方、経済的にはより積極的な改革を推進している。昨年『6・28改革措置』で始めた資本主義的な要素の導入が次第にいくつかの経済単位に広がり、内閣による経済統制を強化している。最近は全国的に経済特区を設置したりもした。一方、馬息嶺(マシンリョン)スキー場や紋繍(ムンス)遊泳場建設など顕示的事業に没頭する姿や、米プロバスケット選手デニス・ロッドマンと交流する姿を見ると即興的という印象もある」と論じている。
権力基盤の強化で強硬姿勢を見せる一方、国民経済の改善への積極的な姿勢をにじませる……金第1書記は一見、矛盾するような政策を施行している。その政策が実りをもたらすかどうか現時点では不明だが、張派粛清で見せたその非情な側面は国民の経済活動を委縮させる一方、国際社会からは独裁国家のレッテル(韓国・朴槿恵大統領)を張られ、近隣諸国との協調が一層、難しくなる可能性が考えられる。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。