GoogleとCANVASのプログラミング教育 --- 中村 伊知哉

アゴラ

2013年10月29日、東京・広尾の広尾学園中学校・高等学校にGoogleのエリック・シュミット会長が姿を見せました。われらがNPO「CANVAS」と協力して、日本のコンピューター科学教育を支援する「コンピューターに親しもう」プログラムを開始することを表明したのです。


このプログラムは、6~15歳の子どもがプログラミングの基礎を学ぶ取組。手のひらサイズの安価なコンピューター「Raspberry Pi」と子ども向けプログラミング言語「Scratch」を使うものです。5000台のRaspberry Piを提供し、2万5000人以上の児童・生徒にプログラミング体験を届けることを目指すとしています。

また、教員・NPO法人向けにも、Raspberry PiやScratchを用いる授業の指導方法などが学べる研修を実施することにしています。プログラムへの申し込みは、CANVASのサイトから行えます。

シュミット会長は「日本はサイエンスでもイノベーションでもリーダーだが、ソフトウェアの分野ではリーダーにはなれていない。ソフトウェアの力を伸ばすためには、10代から始めること。コンピューター科学に触れる機会を増やすことがよい変化の第一歩になるのでは」とし、高校生たちに「コンピューターを使いこなして、未来を切り開いてほしい」と語りかけました。

プログラミング言語「Scratch」は、ぼくがMITメディアラボにいたころ、共に子ども研究機関「大川センター」の設立に奔走したミッチェル・レズニック教授が開発したもの。現理事長の石戸さんらと2002年にCANVASを設立して以来、ぼくらは30万人の子どもにプログラミングなど各種のワークショップを提供してきました。今度はGoogleの協力を得て本格展開です。 

石戸理事長は言います。「情報化社会を生きる子どもたちにとって必要な力は創造力とコミュニケーション力。そのためにプログラミング教育が役に立つ。こういう活動をしているとよく『プログラマーを育てたいのですか』と聞かれるが、そうではない。プログラミングを通じて論理的に考えて問題を解決する力や、他者と協力して新しい価値を作り出す力などを養ってほしい。知識を教える「教育」の場ではなく、自分たちで学んでいく「学習」の場を提供していきたい。」

そして早速、「小学生からはじめるわくわくプログラミング」の著者で、アランケイのおともだち、CANVASフェローの阿部和広さんがRaspberry PiとScratchを使った授業+ワークショップを高校1年生に行いました。CANVASはこうしたワークショップを本格展開していきます。よろしく。

CANVASは既に「キッズクリエイティブ研究所」と称して、東大、早稲田などあちこちの大学や商業施設などで定例ワークショップシリーズを開いてきました。造形・デザイン・映像・音楽・デジタル・コトバ・カラダ・環境・サイエン ス・食。

キッズクリエイティブ研究所
「キッズクリエイティブ研究所」は、NPO法人CANVASが開催するこどものためのワークショップシリーズです。

そして、そこに加わったシリーズがプログラミングワークショップを定常開催する「プログラミングラボ」。グリー、デジタルハリウッド大学に協力いただき、小学生向けにプログラミングのワークショップをオープンしています。今回のGoogleの協力で、こうした活動がパワーアップします。

Bitly

ただこれは、石戸理事長も言うように、プログラミング「を」教えるものではありません。プログラミング「で」つくりだすことを目的にしています。プログラミングでアニメをつくる。ゲームをつくる。ロボットをつくる。自分のアイデアを形にする。生み出すための手段であり、道具なのです。そしてそれは、よみかきそろばんと並ぶ、基礎的な能力となります。

CANVASではこのワークショップを通して、「自ら学ぶことを学ぶ」ことを経験し、世の中の様々なことについても、学ぶことでより面白くなることに気付く」ことを目的とします。

スティーブ・ジョブスは「アメリカ人は全員コンピューターのプログラミングを学ぶべきだと思う」と語っています。誰もが身につけるべき基本だということですね。日本政府も本年、成長戦略の中で、「義務教育段階からのプログラミング教育など、IT教育を推進する」と記載しています。

そして、驚くことに、プログラミング学習を必修とする高校が登場します。「コードアカデミー高等学校」という通信制の普通高校で、2014年4月の開校を目指して認可が申請されています。ぼくが顧問を務めるキャスタリア社が推進しています。コンピューターを自らいじれないと卒業できない。そういう時代が、もうそこに来ました。

400 Bad Request

編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年1月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。