イエレンFRB議長、デビュー戦は米株高・米債安・ドル高 --- 安田 佐和子

アゴラ

イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長が11日、旧ハンフリー・ホーキンス証言の舞台に立ちました。米下院金融サービス委員会の前で、同議長は自身がメンバーだったことを踏まえ「米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策アプローチをしっかり維持していく」と発言。また①資産買い入れ縮小は非常にゆっくりとしたペース、②低金利政策は継続、③エマージング市場の混乱への影響は限定的、④テーパリングの小休止には大幅な見通し悪化が必要──との見解を明らかにしました。重要ポイントの発言内容の要約は、以下の通り。

資産買い入れの縮小

「非常にゆっくりとしたペースで縮小を継続する」公算が大きいと述べつつ、「既定路線にはない」と付け加えた。労働市場は、失業率が利上げの数値目標6.5%に接近するなかでも「完全と呼べる状況には程遠い」とコメント。もっとも、正社員になれずパートタイム従業員でとどまる労働者のほか、長期失業者の高い割合を踏まえ「失業率以外の要素も考慮することが重要」との見解を示した。

エマージング通貨安など金融市場の変動について

「国際金融市場での最近の変動を注視している」と発言。もっとも「米経済に大いなるリスクを与えるとは認識していない」とも付け加えた。

<質疑応答>テーパリングを中止する可能性

経済見通しに大きな変化が必要と回答した。その上で「雇用の広範なデータ、および消費や経済成長」を注視すると応じている。12月1月の雇用統計については、「自身の予想を下回って驚いた」と発言。もっとも、大寒波や積雪という悪天候が重なったことから「結論を急ぐべきではない」と釘を刺した。

<質疑応答>労働参加率

「ベビーブーマー世代の高齢化による低下」を指摘しつつ、「構造要因が大部分とみられる景気循環要因も影響を及ぼしている可能性」も挙げた。

<質疑応答>ドル

「ドルは世界経済で重要な役割を担う」と発言。また「強いドルを維持するため、インフレ抑制に全力を注ぐ」と述べた。

<質疑応答>日銀の政策

日本には、「経済を衰弱させるデフレに直面中」、「デフレ脱却を目指すことは理解できる」と応じた。その上で、「日銀の政策は為替レートに影響している」とし、円安要因との考えをにじませた。

イエレンFRB議長の議会証言原稿に対するエコノミストの評価は、以下の通りになります。

▽バークレイズのマイケル・ギャピン米エコノミスト

イエレン新FRB議長は、旧ハンフリー・ホーキンス証言で「FOMCの金融政策へのアプローチはしっかりと継続していく」と発言した。イエレン体制が現状の政策運営を貫くスタンスを打ち出したといえる。全体的に議会証言の内容も、同氏のこれまでの発言よりもタカ派寄りでさえあり、サンフランシスコ連銀総裁からFRB副議長に就任した際に中立寄りにシフトした点を踏まえると興味深い。

証言内容は足元の金融市場の混乱や経済指標の鈍化に重要視せず、2014~15年に成長拡大ペースが強まるとのFOMCの認識を繰り返した。その上で、労働市場の改善とインフレ段階的な回復が実現していけば「非常にゆっくりとしたペースで債券購入枠を減額していく」との見通しを表明。同発言は、3月18~19日のFOMCで100億ドル追加の減額を行うとの当方の予想に沿う。金融市場の混乱については、経済見通しに「大いなるリスク」を与えないと述べており、現状のテーパリング継続が見込まれる。

インフレと失業率のコメントも、FOMC声明文と合致する内容だった。1月失業率が6.6%と数値目標の6.5%に接近したものの、「依然として高水準」と述べ長期失業率が非常に高い割合を占める点を指摘。FOMCは引き続き、労働市場の健全性を測る指標を広範にわたって検討しているのだろう。インフレについては、2%以下の水準でも原油価格や輸入価格の下落などの一時的要因を挙げ「数年にかけて」目標値2%へ回帰する見通しを維持した。

▽ドイツ証券のジョセフ・ロボローニャ米主席エコノミスト

議会証言での質疑応答での注目は、フォワード・ガイダンスに対する認識だ。イエレン議長は「数値目標をひとつ達成しただけで自動的にFF金利を引き上げるというよりも、経済見通しをが利上げを正当化するかを考慮する」と発言していた。すなわち、数値目標は失業率だけでなくインフレ動向の達成も重視するという意味だろう。失業率の数値目標を引き下げておらず市場に混乱を与えていたものの、そろそろメッセージを明確化してくる可能性がある。

▽リンゼー・グループのピーター・ブックバー・マーケット主席エコノミスト

米12月、1月雇用統計について質疑応答まで言及せず、全く懸念していない様子をみせた。とはいえ、イエレン議長はハト派寄りだ。テーパリング小休止にハードルを設定したとはいえ、彼女はやる時にはやる。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番のビクトリア・マクグレン記者とペドロ・ニコラシ・ダコスタ記者の署名記事で「イエレン議長、政策は従来路線と変わらず(Fed’s Yellen Sets a Steady Policy Course)」と題した記事を配信。記事では、資産買い入れの縮小ペースが会合ごとに100億ドルのペースを維持するシグナルを与えたと指摘した。他に同紙は、イエレン議長が2007~09年の失業率の悪化こそ「循環要因」と説明したと報道。同議長が量的緩和(QE)が労働市場の回復の一助となる見方を明らかにしながら、「金融政策は万能ではない」と強調し、米議会が賃金の低迷や特殊技能不足などの問題に解消することは「大いに適切」と奨励したと伝えた。

一方でWSJ紙とは別に、CNBCは「イエレン議長のハト派寄り、株式相場を支援(Yellen’s dovishness soothes stocks)」との記事を配信していた。

イエレン議長の流し目にドキッ。

(出所 : CNBC)

全般的に、バーナンキ前FRB議長の政策運営にならい中立的な路線を打ち出しました。経済見解釈する側で変幻自在となるイエレン議長の発言は資産買い入れ縮小を大いに期待していた市場にはマイナスに、低金利継続およびテーパリング小休止の可能性さえちらつけば御の字というマーケットはポジティブに作用したといえそうです。

議会証言のいいとこ取りした米株相場は、大幅高。ダウ平均は引け1時間半前に75日移動平均線、一目均衡表・雲の上限を抜けただけでなく1月24日以来の16000ドル台を示現し、一時は225.40ドル高の16027.19ドルまで切り上げました。終値では大台手前へ緩んだとはいえ、ダウ平均の上げ幅は年初来で最大です。S&P500は25日および75日移動平均線を突破、一目均衡表の雲の上限へ上値を伸ばし月23日以来の1800p乗せで取引を終えています。ナスダックも約2週間ぶりの4200p乗せへ接近しました。イエレンFRB議長のデビュー戦を受け、テクニカル的にブルが復活しつつあります。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年2月12日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。