北朝鮮人権問題を調査してきた国際調査委員会は2月17日、北当局が行っている拉致、拷問などを「人道に反する罪」という表現で批判し、責任者を追及するため国際刑事裁判所(ICC)へ付託や国連特別法廷の設置を安保理に勧告した。北朝鮮の人権蹂躙を「反人類罪」と明確に断定した今回の勧告は歴史的だ。
同委員会は2013年3月以来、日本、韓国、英国、米国で公聴会を開く一方、脱北者らにインタビューし、北の「人道に反する罪」の立案に努力してきた。報告書は372頁に及ぶ膨大な内容だ。
脱北者の証を読んだ息子は「なぜ米国は北を攻撃し、北の国民を解放しないのか。米国は過去、北ほど悪くない国にも軍事介入してきたではないか」と呟いた。
息子の呟きはある意味で当然だろう。米軍は過去、イラクに軍事介入して政権を打倒した。理由はイラク・フセイン政権が大量破壊兵器を保有しているという情報に基づいていた(戦争後、イラク政府は大量破壊兵器を保有していなかったことが明らかになった)。
北朝鮮の状況はどうだろうか。国連人権問題担当委員会は「人道への罪」と指摘し、関係者の処罰を要求したのだ。オバマ米政権は今回の報告書の内容をどのように受け止めているのだろうか。
「なぜ、米国は反人類の罪を犯している北朝鮮に軍事介入して国民を解放しないのか」という疑問に対して、代表的な答えを紹介する。
①ポピュリストのオバマ大統領は戦争を好まない。軍事上、必要と分かっていても戦争を避けようとする(オバマ大統領が軍事介入を避けたゆえに、さらに戦争が拡大し、犠牲者が増えるケースも出てきた。例えば、シリアだ。過去3年余りの内戦で13万人以上が犠牲となり、多数の子供が亡くなった)。米国社会も戦争疲れの状況だ。
②北の背後に中国が控えている。米国の軍事介入は中国との軍事衝突を引き起こす危険性が排除できない。
③北は過去3回の核実験を実施した。同国が核兵器を保有していることはほぼ間違いない。核保有国への軍事介入は余りにも危険な冒険だ。
④朝鮮半島で戦争が発生した場合、中国、韓国、日本など近隣諸国への影響が考えられるうえ、世界経済に大きなマイナスだ。
米国のイラク戦争の場合、原油の利権問題が関与していたことは周知の事実だ。北の場合はどうか。北には自動車やIT産業では不可欠のレアメタル(希少金属)が豊富に埋蔵されている。ウラン、金鉱などの鉱山資源もあるが、それらは米国が絶対守りたい直接の国益ではない。
軍事力の比較からいえば、米国は短期間で北の独裁政権を打倒し、国民を解放できる力を持っている。国際社会は「反人類罪」の北政権の崩壊を歓迎するだろう。米軍の軍事介入を批判する国は少ないだろう。にもかかわらず、米国は目下、北への軍事介入を考えていない。
戦争を避け、北のソフトランディングを目指す米国の立場は間違っていないが、少なくとも「反人類罪」をいつまでも黙認しないことを北の独裁政権にはっきりと通告すべきだろう。
国民が拷問され、4カ所の政治犯収容所には8万~12万人の政治犯が収容され、家族ごと処刑されている。そのような国が21世紀に存在するということは私たちの恥だ。
最後に付け加えるが、中国は今回の国際調査委員会の勧告を批判し、安保理で拒否権を行使する姿勢を明らかにしている。中国は北の「反人類罪」の共犯者だ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。