原発停止による「国富流出3.6兆円」との説明は本当か? --- 石川 和男

アゴラ

3月4日の毎日新聞ネット記事によると、茂木経済産業相は、原発停止に伴う2013年度の燃料費が震災前に比べ3.6兆円増え、その分、日本の国富が産油国に流出しているとする経産省試算について説明したとのこと。


<記事抜粋>
・3.6兆円のうち約3割は資源相場上昇や円安でドル建て価格が膨らんだことが影響していると分析。
・この分析に基づけば、純粋なコスト増(国富流出)は2.5兆円程度。

・経産省は、08~10年度平均原発発電量(2748億キロワット時)から13年度原発発電量(94億キロワット時)を差し引いた2654億キロワット時を火力代替増加額として算出。13年度LNG価格1トン=839ドル、円相場1ドル=98.9円として燃料費3.6兆円増と試算。
・ただ、10年度LNG価格1トン=584ドル、円相場1ドル=86.1円。仮に購入する燃料の量が同じでも「資源価格高騰」と「円安」の影響で13年度は燃料費が膨らんだことになり「原発停止の影響を過剰に見積もっている」との批判が出ていた。
・経産省によると、3.6兆円のうち資源相場上昇の影響は2割(7200億円)、円安の影響は1割(3600億円)。

 この『3.6兆円』説については、エネルギー基本計画政府原案の中で、次のように記述されている。



 即ち、「現在、原子力発電の停止分の発電電力量を火力発電の焚き増しにより代替していると推計すると、2013年度に海外に流出する輸入燃料費は、東日本大震災前並(2008年度~2010年度の平均)にベースロード電源として原子力を利用した場合と比べ、約3.6兆円増加すると試算される」と。

 これについて、この記事では「資源相場上昇の影響は2割(7200億円)、円安の影響は1割(3600億円)」なので、この分は原発停止の影響ではないと主張している。しかし、これは甚だ奇妙だ。仮に「3.6兆円」から「1兆円」を差し引いたとしても「2.5兆円」となるが、それは『資源相場が上昇せず、円安にならなかった場合』の国富流出額であり、そこに結局は「資源相場上昇の影響は2割(7200億円)、円安の影響は1割(3600億円)」が加算されるので、結果は同じとなる。

 いずれにせよ、事故を起こしていない原発の運営が正常なままであった場合と比べて、全く無用で巨額な国民負担増が現に継続中であることに変わりはない。そして、そうした不要な国民負担を即刻回避すべきと主張し、それを断行しようとしない政府を批判することが、本来の大手報道機関の役割ではないのか。

 毎日新聞社は、“脱原発”を主張し続けなければならない立場なのかもしれないが、“脱原発”を早く実現したいのであれば、原子力発電の早期再開など原発運営正常化を主張しべきだ。そうでないと、円滑な廃炉工程を迎え入れることはできない。これは、コスト計算をすれば瞬時にわかること。 

 記事の最後の方に「「3.6兆円の国富流出」は政府が原発再稼働の必要性を訴える際に引用されているだけに、茂木氏の今回の説明との1兆円もの差は行政への不信感につながる可能性もある」と書かれているのは、記事を書いた側の主観に過ぎない。上述のような説明をしっかりと行えば、茂木経産相への不信感にはつながらず、逆にこの記事への不信感が醸成されることになるだろう。


編集部より:この記事は石川和男氏のブログ「霞が関政策総研ブログ by 石川和男」2014年3月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった石川氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は霞が関政策総研ブログ by 石川和男をご覧ください。