「昭和なアナログ回帰」を考える --- 岡本 裕明

アゴラ

2月17日号の日経ビジネスの特集は「昭和な会社が強い」と題し、IT化一辺倒の動きに一考を与える内容でありました。特に昭和なやり方を率先している会社の中にキヤノン電子や企業向けソフトウェアのドリームアーツ、国内最大級のネット広告会社マイクロアド、クラウドマーケティングのSansan、大塚商会などが例として取り上げられています。どう「昭和か」は会社それぞれでありますが、例えば辺鄙な片田舎で合宿をする、CCメールは禁止、ネット注文はNG、朝はパソコンの電源入らず、挙句の果てにはスマホ止めたら5000円という会社もあるようです。


紙面で指摘しているのは多くのIT関連の会社がわざわざITへの偏重に対する一定の規制を課しているのはIT会社だからこそわかる弊害を自らの手で修正しているということでありましょうか?

私は昭和の時代をアナログの時代と読みかえると昭和を知らない世代の人たちにもう少しすっきり理解してもらえるのではないかと思います。

我々はパソコンが事務所に導入され、個人メールが配給され、営業マンにはガラケーが配布され、今ではタブレットに会社の製品情報を満載にして営業に行くという時代の到来を迎え便利になった、時代は進化した、革命的だ、と大称賛し続けてきたと思います。いや、私も効率は上がったと思っていました。

ところが労働生産性をくらべると1988年は638万円に対して2012年は666万円と4.3%しか改善していないというのです。88年といえばバブル真っ盛りでしたが事務所の電話は数名で一台をシェアし、会社はダイヤルインではなく、大代表で交換手がいた時代です。机の上はひたすら書類、書類、書類で対岸の人とのプライバシーを書類を積み上げることで隠すなどということもやっていた時代です。時としてその書類の山がバランスを崩すのですが、隣の机の雪崩からなぜか腐った弁当が出てきたこともありました。

そんな時代は電話とファックスが基本的なやり取り方法。営業マンは電話をしながら頭を下げまくったものでした。周りの席の人は電話の内容を聞いていますから「お前、それ、大丈夫なのか?」などと担当外のことでも心配してくれたりするのです。当然ながら社内の風通しは極めて良好で常に部員全員が何をしているのかある程度は分かっている中でお互いがお互いの技量を十分わかっていたと思います。

ところがメールができたころから電話をしなくなった理由は若い社員は電話の仕方が悪いと上司から叱られるのがいやだったのかもしれません。メールなら隣の人にも分からずにそっと送れますからそれそこ何を書いても分からないといってよいのだろうと思います。会社の場合は管理システムがしっかりしていますから私用に使ったり悪用すれば会社は権利でその内容を確認することは出来るでしょうけれどその作業は膨大ですから特に目をつけられていなければ詳細にみられることも少ないかもしれません。

以前、私の部下の一人がなかなかスプレッドシートの作業ができないのでまだか、と聞けばもうできます、と蕎麦屋の出前状態。何かおかしいと思い、作業の中身をのぞいたらエクセルのシートが全部、生の数字だったことがあります。わからないということがわからなかったのかもしれません。

つまり、上司からすれば何をしているかわからないということでもあります。お客さんとの対応も会社や上司が期待しているやり取りではないかもしれません。先日もメールを送れと指示をしていた上司の意向を放置し、顧客(私です)を怒らせたケースもありました。考えてみれば私も会社員、社会人としての振る舞いの一部は上司がやり取りしている電話の応対で学んだものです。どこでへりくだるのか、押しどころはいつか、物事はどの程度はっきり言えばよいのかなどはいろいろな人のトーク術を経て身に着け、それが今ではメールとして転化させることができたのですが、メールから直接育ってしまった多分、30代前半から下の人はメールの書き方そのものが不十分かもしれません。

以前、東京にある経営コンサル会社にお邪魔した時、100名近くいるフロアから聞こえる音はキーボードを打つ音のみだったのには非常に違和感を感じました。会話をしないでどんなコンサルができるのでしょうか? 何かおかしいと誰でも思うでしょう。

日経ビジネスにもありましたが、アメリカのヤフーが在宅勤務を止めたのはコミュニケーションができないから、とありました。そして、人と話をしているうちにアイディアがどんどん浮かんでくる、というのは非常に意味ある指摘だったと思いますし、それこそITの先駆者の本家ヤフーですらアナログな選択をしたというのは洋の東西を問わないということの証ではないでしょうか?

今後求められるスタイルとはアナログとデジタルの長短を理解し、それぞれをうまく使いこなすことではないかと思います。ビジネスとは顧客があり、その顧客とは会話をし、説得し、理解してもらうことで前に進んでいくものです。杓子定規なメールだけでことを済ませようとするのは単なる面倒くさがりであり、結果としてお客をなくす原因につながるでしょう。

確かにアナログには非効率な面も多くあります。ですが、足繁く通って何度も会話しているうちにはじめは反対だったのにいつの間にかお友達になっていたという話も最近聞きました。デジタルは削除をすれば瞬時に消えますがアナログは人間の情が入り込むという全く相違する面があるということに気が付くと世界は違った色に見えてくるかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年3月12日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。