米国の話ではない。音楽の都ウィーン市で武器所持カートを申請する市民が急増してきたのだ。10年前の2004年、334人(合計1万9707人)が武器所持カードを申請したが、昨年はその数は975人(2万3573人)とほぼ3倍に急増したという。
なぜウィーン市民は武器を求めだしたのだろうか。一般的には、武器購入の動機は家宅侵入窃盗犯や暴力犯罪から自分の命と財産を守ることにある。その背後には、犯罪の急増があることは明らかだ。
オーストリアの2013年の犯罪総件数は54万6396件で前年比で0・3%減(1631件減)だったが、首都ウィーン市(特別州)の昨年犯罪総件数は21万2503件で前年(20万355件)比で4・7%増加している。家宅侵入窃盗件数は2010年以来減少傾向にあったが、昨年は1万6548件と前年比(1万5454件)で7・1%増加。特に、ウィーン市では東欧犯罪グループによる家宅侵入が増えている。
ウィーン市内の武器販売店関係者によると、「市民は犯罪の増加を懸念している。その一方、警察官に自身の安全を委ねることに不安を感じだしてきた」(メトロ新聞ホイテ)と指摘し、市民が自衛手段として武器を求めだしてきたというのだ。
オーストリアでは1997年7月に現行の武器法が施行された。武器を購入、保有するためには武器所持カード(Waffenbesitzkarte)が必要であり、携帯には武器パス(Waffenpass)が求められる。
基本的には18歳以上の国民は武器所持を申請できるが、武器のカテゴリーによっては21歳以上と制限されている。職業上、武器の携帯が認められているのは治安関係者のほか、ガソリンスタンドやタバコ屋さん、タクシー運転手などの職種に従事している関係者だ。
オーストリア内務省は2月27日、首都ウィーンの98カ所の警察署のうち16カ所の閉鎖を決定したばかりだ。市民の不安は高まってきているから、武器を買い求める市民が今後も増えてくるだろう。
ちょっと脱線するが、オーストリア警察官には優秀な拳銃の使い手が多く、的を外さないという話を紹介する。
警察官がスーパーに侵入しようとしていた犯人を目撃した。警察官は若い犯人に声をかけた。犯人が振り向いたとき、武器を所持していると思った警察官は直ぐに拳銃を抜いて撃った。それも心臓にだ。
その事件前にも警察官が逃げる犯人を射殺したという事件があったことから、「なぜ警察官は犯人を簡単に射殺するのか」という議論が湧いた。
若い犯人の場合、まだ何もしていない段階で射殺されてしまったのだ。警察官が自衛のために撃つのなら心臓を狙うのではなく、足とか手などを撃てば良かったはずだ、といった批判の声が当然聞かれた。
調査で判明したことは、犯人を見つけた警察官が慌てて拳銃を抜いて撃ったというのだ。手か足を狙って犯人を取り押さえる、といった余裕はなかった。日頃訓練を受けている警察官ですら武器を正しく使用するのは容易ではないわけだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。