忘れられる「パレスチナ人問題」 --- 長谷川 良

アゴラ

イスラエルとパレスチナの交渉期限の今月末が差し迫ってきた。よほど楽天主義者でない限り、「問題の解決は可能だ」とは言えなくなった。

いつものように、イスラエルとパレスチナの双方が「交渉が暗礁に乗り上げたのは相手側の責任だ」と弁明する用意をしている。


パレスチナ側は「イスラエルが約束していたパレスチナ囚人の釈放を実行しなかったからだ」とし、15の国連・国際条約の加盟を申し込んだ。「パレスチナ人国家」へ更に一歩駒を進めた感じだ。

それに対し、イスラエル側が「パレスチナ側は主権国家の道を一方的に進めている」と強く反発し、パレスチナ自治政府に代わって徴収している関税・税収入の譲渡停止などの経済制裁を施行したばかりだ。

一方、イスラエルとパレスチナ間の平和交渉に全力を投資し、昨年7月以来、多くの時間を費やしてきたケリー国務長官は「米国がいつまでも時間を有していると考えるべきでない」と、交渉が進まないことにイライラしてきている。

昨年再開した交渉はどうなったのか。イスラエルとパレスチナ両者は一応、2国家共存で一致しているが、国家建設で不可欠な国境線の設定の見通しはない。そればかりかエルサレムの地位問題、難民帰還問題、入植地問題、イスラエルの安全保障問題など主要改題は未解決のままだ。

パレスチナ側は「イスラエル側は問題解決の意思がない」という。多分、これは正鵠を射ているだろう。イスラエルはパレスチナ国家の建設をさまざまな理由を付けて防ごうとしていることは周知の事実だ。イスラエル側は、パレスチナ側の統治能力のなさや内部の権力争いに助けられている面も否定できない。

パレスチナ問題に解決の道が本当にないのか、といえばそうではない。イスラエル人とパレスチナ人が一つの国家の下で共存すればいいのだ。国境線を設定する必要もない。ただし、この共存案の致命的問題は、パレスチナ人が近い将来、国家の過半数を占め、イスラエル人が少数派に落ちてしまう危険性が出てくることだ。だから、イスラエル側はパレスチナ人と一つの国家の旗のもとで共存できないわけだ。選挙をすれば、人口の多いパレスチナ人が多くの行政区を合法的に掌握できるからだ。

中東・北アフリカ諸国で“アラブの春”(民主化運動)が勃発して以来、汎アラブ主義は後退し、アラブ諸国でパレスチナ問題への関心も薄れてきた。

一方、欧米諸国はウクライナ危機に直面し、大国ロシアと対抗するために内部の結束が急務となってきた。解決の見通しのないパレスチナ問題に時間を費やすことができなくなりつつある。パレスチナ問題で解決の筋道をつけ、ノーベル平和賞でも、と密かに考えていたケリー米国務長官もここにきて疲れが目立ち始めたのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。