誤りのGPIF改革

小幡 績

現在のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革の議論は誤っている。
第一に、成長戦略の一環として議論するべきでない。日本経済の成長のためではなく、国民の年金資金の運用だけを目的とするべきである。リスクを限定しつつリターンを上げる。それだけに集中するべきである。
第二に、日本株式への投資を増やすべきでない。


現在日本株への配分割合は全体資金の12%であり、日本以外の株式も12%である。日本経済はフローで見てもストックで見ても(GDPで見ても資産市場で見ても)世界の高々10%(未満)であり、明らかに日本株は過大投資であり、ホームバイアス(自国の資産に資金を過大に投資してしまうこと)の過ちを犯している。日本国債への配分60%は明らかなホームバイアスによる最大の誤りなのであるが、日本株への投資も二番目に大きな誤りであり、増やすべきは、海外債券、海外株式、そのほか不動産などのオルタナティブ資産(伝統的な株式、債券以外の資産)あるいはオルタナティブな手法による運用である。
それにもかかわらず、改革とはリスクテイク、リスクテイクとは日本株買いという短絡的どころか、180度誤った議論になっている。これは、おそらく確信犯で、成長戦略という色気、株価の上昇という下心で議論されていることによるものであり、この点だけ見ても、現在の改革議論は間違っている。

最も重要なのは、GPIFの真の存在意義とは何かということであり、それを踏まえたうえでのガバナンス改革、制度改革、人材戦略となるのである。別のところでも書いたが、もう少し簡素にかつ体系的に、アゴラでも次回書いてみることにする。

ここでは、運用に関する結論だけを述べておこう。

リスクを高めずに、ガバナンス改革をし、GPIFの信頼を高めることにより、透明性や説明責任によるリターンの低下を最小限にとどめ、ベンチマークや事前の硬直的なポートフォリオから逃れ、真にリターンを追及できるガバナンス体制、内部体制、人材、運用手法、組織文化を生み出す。そして、その後に、新しいポートフォリオについて議論を進めるのである。そのときに初めて、それならば、もう少しリスク許容度自体も上げられるのではないか、という意見が出資者である国民にも広まり、それを受けて政治の短期的な介入も防止され、その結果、初めてリスク許容度を上げ、さらにリターンを上げることができるようになるのである。

そのときのポートフォリオは、日本国債は最小化され、日本株式というカテゴリーもなくなり、世界全体で考えるようになり、エクイティ的(株式的)性格の資産、フィックスドインカム的(債券的)資産、実物的資産、そのほかの資産、本当のそのほか(あらゆる投資手法を飲み込み、また、一時的なリスクオフのための現金保有を許可する)に分けられることになる。ベンチマークや時価や形式的な説明責任、透明性に縛られず、真に信頼され、真に透明な組織が、気概と柔軟さを持って運用する組織とGPIFはなるのである。