ウォール街を占拠しなくとも、この本がベストセラーに! --- 安田 佐和子

アゴラ

2009年4月から開始したブル相場はまだ続いてますが、2010年に花開いた格差撲滅運動「ウォール街を占拠せよ!」はすっかり影を潜めてしまいました。

それでも、アマゾンのベストセラー・ランキングでは金融業界を揺るがすマイケル・ルイス著「フラッシュ・ボーイズ(Flash Boys)」をゆうに飛び越え、この本が1位に輝いています。

フランス人経済学者トマ・ピケティ著「21世紀の資本論(Capital)」は、富の集中がもたらす不均衡に迫りトリクルダウン理論に立ち向かう意欲作です。タイトルでもじったように、カール・マルクス著「資本論(TCapital: Critique of Political Economy)」が底流にある内容。ただマサチューセッツ工科大学で准教授として教鞭を取った経験をもち、パリ経済学校の設立者の1人であり現教授であるピケティ氏の論説本というより、雄弁に語るのは15年にわたり集積してきた200年に及ぶ膨大かつ貴重なデータなんです。

アマゾンで、堂々の1位!

景気後退のド真ん中にあるわけでもないのに、685ページに及ぶ電話帳並みの本が1位を飾るとは。2-3月の米雇用統計にあるように、中低所得者層を中心に賃金が上昇しない失望の証といえるのではないでしょうか。2位の本が銀行業界の規制強化を声高に主張するエリザベス・ウォーレン米上院議員(マサチューセッツ出身、民主党)であるのも、興味深い。

ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙でも、売れ筋ランキングで1位であるのは当然でしょう。

経済政策研究所(EPI)によると、2013年時点でニューヨーカーの4人世帯が快適に暮らしていける生活費は、9万3500ドル(953万7000円)だったんです!!

対して所得動向はといいますと、2010-12年時点の中央値は5万711ドル(517万1730円)。驚くべきことに、金融危機を挟んだ2007—2009年時点の5万4057ドル(551万3810円)を下回っていました。

言わずもがな、4人世帯に望ましい生活費のざっくり半分以下。資本主義のメッカに住むニューヨーカーをはじめ、富の分配という恩恵にあずかっていないアメリカ人中低所得者層の間で、意識変化が現れるのもむべなるかな。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年4月25日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。