「お前はもうゲームセットだ!」は流行らない

新田 哲史

2014年4月クールの大本命、「ルーズヴェルト・ゲーム」(TBS系)が始まりましたね。原作が池井戸先生で、監督が福沢さん、音楽が服部さん、敵役は中車さん、宮川さんと、鉄壁の“半沢シフト”を敷いたことで、ある種の開き直りがむしろ小気味よくて、事実上のシーズン2として楽しませてもらいました(ネタバレ付きまとめサイト)。

池井戸 潤
講談社
2012-02-22



それにしても、「MOZU」でのヘビースモーキングで、美魔女ファイナリストから、西島ケンシロウさんと一緒にネット上でお叱りを受けてしまった中車さんですが、同じクールで同じ局の連ドラ出演。歌舞伎のほうもお忙しいのに八面六臂の活躍には驚くばかりですね。それで最終回には、唐沢さんが中車さんに投げつけるであろう今作の決め台詞はどうやら「倍返し」ならぬ「お前はもうゲームセットだ!」。いかにも流行語大賞二番煎じを狙ったかのようなセリフに対し、ネット上では、流行するかどうか問答がそこかしこで勃発。リアルタイム検索をかけると、やはり反応はというと微妙なようで…。

その背景にあるのは「既視感」なんですよね。言わずもがな「北斗の拳」のお馴染みのセリフ「お前はもう死んでいる」をどうしても彷彿とさせてしまう。しかし流行語というのは、言葉のイノベーションだと思うんですよ。その時代の空気なり、ドラマの世界観なり存在するストーリーを一言に凝縮した象徴的なコンテンツとして提示する。視聴者はその斬新さに共鳴するような気もするわけです。「え?何それ?」的な。

しかも「狙った感」は見えない方がいい。半沢のときは、「倍返し」は原作にも出てきて早くから決め台詞の候補に挙がっていたようですが、番組開始前の宣伝コピーは、みんな忘れていると思うけど「クソ上司め、覚えていやがれ!」。TBSの人がどこかで喋っていたのを見た記憶があるんですが、番組を見ていない人に「クソ上司め、倍返しだ!」をコピーとして提示したところで、「何のこっちゃ?」「何で倍にして返すんだ?」と思われてしまう。だから最初は、理不尽な命令を主人公に押し付ける上司へのリベンジ劇というストーリーをかみ砕いたものにしたのではなかったでしょうかね。それは、「結果論」に見えなくもないけど、捨て台詞ならぬ捨て駒を作ったブリッジ施策も功を奏したのかと思います。そういう意味では、流行語を狙って作る場合であれば、古き良き時代のAIDMA理論に基づいて打ち出されているのかな、とも思います。

そうこう書いているうちにビデオリサーチ社から、初回視聴率が発表されて14.1%は、半沢の初回より5ポイント以上下回った模様。同クールで汐留が制作している池井戸作品の「花咲舞が黙ってない」の数字(初回・17.2、第2回14.7)を下回ったのは、“正統派”を自任しているであろう赤坂の皆様には、耐えがたいものがあるかもしれません。もっとも、唐沢さん―江口さんという「白い巨塔」コンビを、半沢シフトにはめ込んだというのは、新規顧客の開拓ではなく、固定客を手堅く取りに行ったという見方もできるわけですが、次回以降、どうなりますでしょうか。

それにしても、個人的には日本版マネーボールといいますか、元野球記者としては「野球×ビジネス」の作品が「弱くても勝てます」と同クールで一斉放送という展開は率直に嬉しいですね。プロ野球ビジネスの小説を書きかけの小生としては大変刺激されます。野球の競技中のシーンもカット割りやら迫力ありますし、普段トレーニングをしていない派遣社員がいきなり153キロの直球を投げてしまうという漫画のような展開も、工藤ジュニアというブランドによるお墨付きで妙に納得させられてしまう。個人的には、野球部新監督役の手塚とおるさんの怪演に注目しておりまして、手塚さんのマネをして、ダッグアウトの椅子の上でなぜか「体育座り」する監督が、夏の高校野球の予選や都市対抗で雨後の筍のごとく出現するくらい流行らないかと期待しております。いやー、すっかり球春ですね。ではでは。

新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ