ヨルダンの2つのタブー --- 長谷川 良

アゴラ

5月9日から12日まで、ヨルダンの首都アンマンで開催された中東問題に関する国際会議の取材に出かけていた。ウィーンから3時間40分余りでヨルダンの首都アンマンに到着する。


▲アンマン市の風景(2014年5月10日、撮影)


アンマン市人口はウィーン市(人口175万人)より少ないが、周辺人口、そして難民の数を入れれば200万人にもなる。人口から言えば、大都市だが、機上から眺めたアンマン市の全景は緑の少ない、砂漠色の都市だ。この中東都市に200万人の人々が住んでいるとは想像できないぐらいだ。

シリア内戦の影響から100万人以上の難民がヨルダンに殺到し、その対応でヨルダン政府も大変だ。イラクやレバノンといった周辺国家からも多数の難民がヨルダンに逃げてきている。最近も15万人収容可能な難民キャンプが設置されたばかりという。

ヨルダン人口の70%がパレスチナ人によって占められている国家だ。そのため、パレスチナ問題は非常にデリケートな政治問題だ。

アンマンの友人が「ここでは2つのタブーがある。一つはイスラエルという言葉を会話では使わないことだ。パレスチナの若者が会話の中で『イスラエル……』といえば、周囲にいた人たちが振り向くよ。外国人旅行者はイスラエルという言葉を簡単に使うが、ヨルダン人はイスラエルをパレスチナ人という言葉で代用するケースもあるほどだ。外国人には戸惑うことがあるだろう。2つ目は『宣教師』(ミッショナリー)という言葉だ。キリスト教関係者は注意したらいいだろう。パレスチナ社会ではキリスト教宣教師は市民権がないのだ」と説明してくれた。

国際会議ではパレスチナ問題がテーマの一つだったが、パレスチナ人知識人や指導者のイスラエル憎しは日本人には理解できないほど深い、といった感じだ。

イスラエルとパレスチナの和平交渉は先月29日で一応、時間切れとなった。中東和平交渉は暫く休会(ケリー米国務長官)といった状況だ。

会議を主催したヨルダン関係者は「わが国は小さな国ですが、地理的には中東の中心を占めています。ヨルダンは中東の和平実現では大きな役割を果たしてきました」と挨拶していたのが印象的だった。

アンマンのクイーンアリア国際空港、ホテルなど公共関連施設では故フセイン国王、アブドラー現国王、そしてフセイン王子(後継者)の3人の写真が飾られている。国王家への国民の尊敬心は変わらないという。人口630万人余りの中東の小国は国王を元首として尊敬し、国の統合を維持してきたわけだ。

ちなみに、アンマンで2005年、連続爆弾テロが発生して以来、ホテルに入る時、大きな百貨店に入る時は、警備員のコントロールを受けなければならなくなったという。

当方も宿泊先のホテルに到着した時、空港時と同様のチェックを受けた。ホテル入りする前にボデー・チェックを受けたのは初めてだったので、「ああ、ここは中東だな」といった思いが改めて湧いてきた。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。