「24時間テレビ」でギャラをもらうことの是非について

尾藤 克之


夏恒例の「24時間テレビ」が終了しました。瞬間最高視聴率41.9%(平均視聴率17.3%)を記録して、改めて番組の認知度の高さが明らかになりました。


ところが、24時間テレビは出演者に高額なギャラを支払っているため、このギャラの扱いをめぐっては、肯定派と否定派に二分されることが少なくありません。

●ギャラ肯定派と否定派の意見

1)芸能人の認知度で募金も集まるなら良い
芸能人は、これまでの活動によって、フアンや支援者がいるためメディアへの影響力が強い。芸能人が声をあげることで多くの人に浸透して、多額の募金が集まるなら問題は無い。

2)芸能人が出演するわけだからギャラは当然
24時間テレビで集まる募金は、15億4522万6444円(2013年)です。今年も同程度の募金が見込まれています。募金が集まることで福祉に関する諸問題を解決できるわけですから、参加した芸能人にギャラを渡しても何ら問題は無い。

昨年、写真週刊誌のFLASH(8/13号)は、番組総製作費が4億2000万円で、CM収入の合計が22億2750万円だと報じています。これに募金を加算すれば、番組総収入は相当な額になります。

1回で約15億円を集められるチャリティー番組は稀有でしょう。瞬間最高視聴率41.9%は「家政婦のミタ」「半沢直樹」とほぼ同等の数値です。広告収入が減少するなか、TV関係者にとって魅力的な番組であることには間違いありません。

さらに年に1回とはいえ、社会福祉について考える機会が拡がりますから、高齢化社会を迎えている日本では、学習的な効果も期待できます。

ギャラ否定派の意見としては次のようなものがあるでしょう。

3)障害者に対する誤った理解
番組における、障害者の取り上げ方に問題があります。啓蒙する内容ではなく、気の毒、可哀想という、健常者視点に留まっているため、障害者教育の観点からすれば好ましくありません。むしろ差別感を助長させる危険性すらあります。

●ボランティアとは何なのか?

ここで、ボランティアの定義について考えてみましょう。ボランティア活動をする際に、ボランティア精神という言葉を耳にすることがあるでしょう。ボランティアに関しては参考になる定義があるため主要なものを紹介したいと思います。

アメリカ(米国労働省Department of Labor)
団体の活動を通じて、あるいは、団体のために無償で行った行動。交通費や材料費等の実費を受け取っても無償活動の範疇と考えられる。

イギリス(The National Centre for Volunteering)
無報酬で時間を割く活動、親しい人以外の誰かに役立つこと、あるいは環境に役立つこと目的とした活動。求職者手当規則のなかで利益以外を目的とした団体のために働くこと。

日本(文科省生涯学習審議会)
ボランティア活動とは、自発的意志に基づく、公共目的のために行われる無償の活動のことをいいます。そうした活動を進んで行う人のことをボランティアと呼んでいます。

各国ともに、ボランティアの定義は無報酬が原則になっています。本来は無報酬であるはずのボランティア活動が収益化されていることに違和感を感じている人が多いのでしょう。

私は、有償であることが問題なのではなく、同番組が社会福祉を広く認知させて、長きに渡り国民意識に根付いていることや、多額の募金によって各種福祉問題を解決する一翼を担っていることは、賞賛すべきであると考えます。

ですが、24時間テレビは、チャリティーやボランティア活動ではありません。正確に記載するなら、有償チャリティー、有償ボランティア活動にあたります。今後も、チャリティーやボランティア活動をうたうのであれば、先人から受け継がれてきた精神は遵守しなくてはいけないでしょう。

また、物語としてのストーリー性を追求しすぎないことです。必要なことは、頑張っている障害者を登場させて物語風にアレンジするのではなく、社会福祉全体を鳥瞰して、障害者を取り巻く課題を番組としてどのように取上げていくのか。そして、解決をする示唆ができるかだと思います。

●読者への示唆

心身に障害をもつ人が社会参加を果たすためには、さまざまな「壁」があります。物理的な壁や制度上の壁は、政治や行政の努力で取り除くことができます。しかし偏見や差別など、社会に根付いている「心の壁」を取り除くためには、社会福祉の概念を根本的に見直す必要性があり、それは社会を変革するという時間のかかる課題です。

障害を持つ人たちでも社会構成員の一員として、社会の恩恵を等しく受けることができるノーマライゼーションを実現するには、社会福祉や社会のあり方の概念を変革する途方も無い作業が必要になります。そこに生きる人の心が貧しい社会であっては、ノーマライゼーションを創造することはできないからです。

尾藤克之
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