ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王のイニシャティブに基づき、9月1日夜、ローマのオリンピックスタジアムで世界から約50人の前・現プロサッカー選手を結集して、「平和のための親善試合」が行われた。法王の出身国アルゼンチンの元代表マラドーナ、元フランス代表のジダンなど、世界的なスター選手が華麗なプレーを見せて観客を沸かしたという。
当方はこの欄で「サッカーを愛する神様」というコラムを書き、3代のローマ法王とサッカーの付き合いについても紹介したことがある。その一部を紹介する。
フランシスコが法王に選出された直後、新法王がアルゼンチンのサッカークラブ、サン・ロレンソ(San Lorenzo)のファンだというニュースが流れてきた。クラブのトリコーを抱えて笑うブエノスアイレス大司教(現フランシスコ法王)の写真が掲載されていた。大司教は決して単なるファンではない。正式のクラブメンバーに登録しているのだ。クラブへの熱意は中途半端ではない。南米はサッカーの王国だ。サッカーを理解できずに人を牧会できない。その意味で、ブエノスアイレス大司教時代、フランシスコはサッカーに自然と引き込まれていったのだろう。
一方、前法王のベネディクト16世の出身地ドイツも南米に負けないほどサッカー国だ。ベネディクト16世の出身地であるバイエルン州にはFCバイエルン・ミュンヘンという強豪チームがある。ところで、ヨーゼフ(ベネディクト16世の本名ヨーゼフ・ラッツィンガー)はサッカーを興じる子供たちの中に入って一緒にプレイできなかったという。上手くなかったからだ。何時もベンチに座っていたという。だから、サッカーとは次第に縁が切れ、書籍の人となっていった。
ヨハネ・パウロ2世はクラクワの子供時代、サッカーが好きでポジションはゴールキーパーだった。ポーランド出身の元法王は 法王に選任されたばかりの1978年10月22日、落ち着かなかった。夜、ASローマとFCボローニヤのサッカー試合がテレビで中継されるからだ。どうしても観戦したかった。そこでヨハネ・パウロ2世はプロトコールを早め、夜テレビ中継が観戦できるように調整したという。大したものだ。
ちなみに、バチカンにはクレリクス・カップ(Clericus Cup)というサッカーリーグが存在する。リーグ戦には19歳から57歳までの神学生、神父たちが、出身国別ではなく、機関所属別に分かれて戦う。
ところで、今回は「サッカーを愛する神様」から、「なぜ、神様はサッカーを愛するか」を考えてみた。
オーストリアのザルツブルク州で7月、イスラエルのプロサッカーチーム、マカビハイファとフランスのチームとの練習試合が行われたが、20人の親パレスチナ系の過激な青年たちがピッチに入って、イスラエル選手を襲撃、試合が中断されるという不祥事が起きた。
ピッチに入ってきた青年たちは具体的に誰を襲撃したかったのだろうか。マカビハイファにはユダヤ教徒のイスラエル人選手も確かにいるが、イスラム教徒のアラブ出身選手、キリスト教信者の選手もいるのだ。
マカビハイファのチームだけではなく、世界のサッカークラブにはさまざまな宗派、民族出身の選手が一緒にプレイしいる。世界サッカークラブのトップを走るドイツ連邦リーグのクラブには欧州選手だけではなく、アフリカ、アジア、中東選手まで、文字通り世界各地の選手が集まっている。彼らはゴールを目指し、ボールを追う。そこでは民族、宗派の違いなどはテーマではない。神様がサッカーというスポーツを愛するのは、そのためだろう。
フランシスコ法王は1日夜の親善試合にビデオメッセージを送り、宗派、民族の違いを超えて結集したスポーツ選手に対し、「君たちのサッカー試合は平和のための希望だ」と述べている。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年9月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。