月刊誌『WiLL』に掲載された「慰安婦問題の次は南京だ!」との記事を、NYタイムズのタブチ・ヒロコ記者が取り上げている。なぜこのような慰安婦問題と南京大虐殺の混同が起こるのか、池田信夫氏の指摘池を踏まえつつ、いわゆる保守派の心情を掬い取りながら解説してみたい。
保守派が求めているのは、慰安婦問題でも、南京問題でも、要するに「朝日的歴史観の修正」である。「敗戦国日本の行いはすべて悪」とするかのような独善的な朝日の歴史観に対する反発が、傍からはあたかも広域な「歴史修正主義」に見えてしまっているのである。
朝日は右傾化や歴史修正、「過去の歴史の正当化」の動きを心配するが、そう見える論調の多くは「反朝日新聞」であって、何も「敗戦国としての立場を受け入れたくない、戦時中の振る舞いはすべて正しかった」などと言いたいわけではないケースがほとんどだ。
求めているのはあくまでも「朝日史観の修正」であり、「(朝日が言っているような、組織的な強制連行を伴う)慰安婦問題などなかった」ということだ。今回の「吉田清治証言の撤回」もその一つだった。全面的な正当化ではなく、「吉田清治証言や、挺身隊との混同と言った嘘まで使って宣伝された歴史観」に対する反発である。
南京事件も同様で、保守派の多くは「(朝日(や中国)の言っているような南京大虐殺としての)南京事件はなかった」と主張したいのであって「南京進軍の正当化」や「南京で起こった犯罪行為を一つ残らず全否定」したいわけではない。だがその思いはどうもうまく伝わっていないように思える。
慰安婦問題と南京大虐殺の「混同」の原因は、「朝日的歴史観を否定したい」という一点で慰安婦問題と南京大虐殺が一緒くたにされていることにある。「慰安婦の次は南京だ」「吉田証言の次は30万人虐殺を撤回せよ」というのも、つまりは「朝日的な歴史観」に対するものだ。
しかし朝日はこのような保守側の論調を報じる時に、自らの存在を消して()内を省き「慰安婦問題/南京事件を否定する日本人がいる」と書く。否定されているのは朝日新聞の歴史観であるにも関わらずだ。
8月6日の慰安婦検証記事「日韓関係 なぜこじれたか」の記事で自らの存在(つまり原因)を除いて検証したために全く無意味な内容になったのが象徴的だ。
保守派の気持ちは痛いほど分かるが、議論には朝日の報じ方も踏まえたうえでの、一層の慎重さと丁寧さが求められる。でなければ日本に対する誤解に上塗りをすることになり、撤回できるものもできなくなる。まさに池田信夫氏の指摘通り、〈慰安婦問題を「日本の戦争は正しかった」という話にすることは、問題を「歴史を直視しない右翼の攻撃」にすり替えようとする朝日新聞の思う壺〉となる。
朝日が自分に対する批判を消して報じることで、国内世論が極端なものとして海外に伝わり、さらに保守派を追い詰め、より過激な主張が出やすい土壌を作っている。そしてそれを朝日が批判する。これをマッチポンプという。実に不毛な状況と言うほかない。
今後も朝日が「歴史を直視したくない人たちが過去を正当化する」と言ったこれまでの言い回しで一方的な断罪を続けるならば、「朝日史観」の修正を求める声も止まないだろう。むしろ朝日の論調を「燃料」としてより燃え上がることになりかねない。
それが海外へ「日本で過去を正当化する歴史修正主義が熱を帯びている」と細かい事情抜きでストレートに報じられる。「日本は軍国主義化しているらしい」とまことしやかに伝えられる。こんなことが続けば、確実に日本全体にとって不幸な結果を招く。日本がより不利な状況に追い込まれることは保守派にとっても本意ではないはずだ。
最悪の事態を防ぐためには、保守派に求められる慎重さと同時に、朝日新聞の〝改心〟が必須だろう。鶏が先か、卵が先か、と言った話になりかねないが、もはや争っている場合ではない。まず影響力の大きい朝日が、国際世論を見据えながらも、「戦時中の日本全否定」ではない、ある程度フェアな歴史観を示すよう努めれば、保守派の修正主義に見える言説も、声高に唱える必要がなくなり、徐々に減ってくるだろう。
反省するところはして、しかし世界中に広まった嘘の部分(強制連行/30万人殺害説など)について歴史的事実に基づいて、冷静に議論できる土壌を作らなければならない。
梶井 彩子
1980年生まれ。中央大学卒業後、企業に勤める傍ら「特定アジアウォッチング」を開始。「若者が日本を考える」きっかけづくりを目指している。月刊『WiLL』などに寄稿の他、『韓国「食品汚染」の恐怖』や『竹島と慰安婦―韓国の反日プロパガンダを撃て』など日韓関係に関する電子書籍などを無料公開中。