予断を許さないスコットランドの独立問題 --- 岡本 裕明

アゴラ

イギリスの北部、スコットランドで独立運動が盛り上がっているのですが、日本のメディアではほとんどお目にかからないので今日はそちらの話題を振りましょう。

スコットランドは1707年にイギリスに併合され現在に至っていますが、その独立の機運が大きくなってきたのは元首相でスコットランド出身のトニー・ブレア氏がスコットランドなどに独立の議会を設け、徐々に自治権が強まっていったこと、北海油田の権益を英国連邦政府が召し上げていることに強い不満感があることなどがその直接的な主因かと思います。


そして9月18日にその独立を問う住民投票が行われるのですが、それが拮抗してきているのです。ついひと月前ぐらいまでは反対派が上回るだろうと見られていたのですが、9月7日にイギリス、サンデータイムズ紙がスコットランドの人に調査した結果によると独立賛成派が51%、反対が49%となり独立が現実のものになる可能性が出てきたのです(この統計は「迷っている人」を除外した表記になっており、有効票1084です。賛成派は前回の47%から4ポイントアップとなっています)。

日本ではなかなか考えられないことですが、海外の国では連邦制などを通じて自治権を強く出しているところは多いものです。なぜそういうことが起きるのかといえば民族、歴史、あるいはカナダの様に国土があまりにも広くて文化、風習が東と西ではかなり違うことなど様々であります。つまり、一つの国を統制するにあたり、皆の言い分をある程度聞きながら国家としてきちんと支配するには一定の許容を認める連邦政府と地方政府の組み合わせはよくできている仕組みでもあるのです。

例えばウクライナの問題でも親ロシア派が多い東部地区問題を解決するために連邦制の案が出ていますが、これもその一環であるのです。

さて、そのスコットランド、仮に18日の住民投票でYESとなれば世界中が大騒ぎになることは必至であります。なぜならばこれはイギリスのみならず上述のように連邦制を取っているところはたくさんあり、また、一部住民が独立のチャンスをうかがっているところもヨーロッパなどに多数あるとされているからです。

ではスコットランドとイギリスのケースを見てみましょう。まず思いつくのは

北海油田の所有問題(一種の領土問題です)
通貨
英国王室

でしょうか?

北海油田は位置的には確かにスコットランドに近いのですが、イギリス政府が「はいそうですか、ではどうぞ」と渡すとも思えません。一方、スコットランドはそれがないと経済的独立をどう維持するのか、これが問題です。まさか、海の風力発電で生計を立てるとは言えないでしょう。

次に通貨ですが、スコットランドには現地通貨、というか、仮想通貨といった方が正しい「スコットランドポンド」があり、ロイヤルバンクオブスコットランドなど3つの銀行がそれぞれ発行しております。一応正貨であり、イギリス中央銀行がその保証をしており、1:1で交換ができます。但し、世界では流通しておらずあくまでもスコットランドのローカル通貨であります。そしてそこには三つの銀行が発行する紙幣プラスバンクオブイングランドが発行する紙幣の4種類の紙幣が流通する奇妙な状況が存在します。

独立すれば当然ながらロイヤルバンクオブスコットランドが中心となって通貨発行を行うわけですが、イギリスの保証はなくなるのですから通貨価値は大幅に減価する可能性はあります。その上、同行は再建途上にあるはずですがまさか中銀になるのでしょうか? 一方のイギリスポンドも国の大きな部分を失うとともに北海油田の行方の不透明さ、更には他の地域にも独立運動の機運を高める結果となり、極めて憂慮すべき事態が起きかねません。

三つ目の英国王室ですが、1707年以前のスコットランドの王室はステュアート家であり、統一後、アン女王を最後にステュアート家は終焉しています。が、スコットランドが独立すれば王室はやはり、ファミリーツリーで繋がるエリザベス女王になるのではないでしょうか? 仮にスコットランドが独立すればエリザベス女王はバッキンガムとエジンバラ城を行き来することになるのでしょうか? それも大変な気がしますが、どうなるのでしょうか?

とにもかくにもスコットランドSNP党のアレックス・サルモンド党首の個人的人気がここまで盛り上げたともされており、イギリス連邦政府は今週にもスコットランドを一体化させる魅力あふれるパッケージを発表するとされています。ここからは双方、おいしい話を盛りだくさん重ねることで駆け引きが進むものと思われます。

予断は許しません。すでに為替市場などにも影響が出始めています。さて、どうなるか、一つ、注目してみたいと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年9月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。