短期国債のマイナス金利

池尾 和人

短期国債の買いオペで、日銀がマイナス金利で短期国債を買い入れたことが報道されている。しかし、この場合にあまりマイナス金利ということを強調しても、意味があるとは思わない。たとえプラス金利でも、準備預金に付利されている0.1%の水準よりも低ければ、日銀が損をすることには変わりがないからである。


『日経ヴェリタス』9月21-27日号の「異見達見」欄に寄稿した拙記事の中でも解説しているが、量的緩和と総称されている政策についても、買いオペの対象がどのような金融資産であるかによって、大別して3つの類型がある。すなわち、短期国債を対象とするのが「純粋の量的緩和」、リスク資産を対象とするのが「信用緩和」、長期国債を対象とするのが「満期延長」である。

金融政策は、お金を一方的にばらまくようなものでは決してなくて、金融資産と別の金融資産の交換である。純粋の量的緩和は、中央銀行が短期国債を買い上げる代わりに(購入代金を準備預金口座に振り込むかたちで)準備預金を提供するものである。こうした操作をすると、中央銀行のバランスシートのサイズは資産・負債の両建てで膨らむことになり、ベースマネーの供給量が増えることになる。

しかし、だからどうだ(So what?)ということになると、ほとんど意味がないということになる。というのは、ゼロ金利制約下では、短期国債と準備預金はほとんど似たものどうしの金融資産である。同じようなものどうしを交換しても、1万円札を千円札10枚と交換するようなもので、それに緩和効果があるとは考えがたいからである。

もちろん短期国債と準備預金は、厳密に100%同じものではない。準備預金を保有できるのは中央銀行に口座をもつ金融機関に限られるが、短期国債は誰でも売り買いできる。あるいは、準備預金とは違って、国債はいろいろな金融取引の担保に使える等の相違はある。それゆえ、似たものどうしといっても、短期国債が選好される場合がある。

似たものどうしを交換しても意義が乏しいことと同時に、そもそもこうした交換に応じるインセンティブ(誘因)も民間金融機関側には存在しない。したがって、民間金融機関側に短期国債と準備預金の交換に応じさせるためには、民間金融機関に利益を与える必要がある。不等価交換を行うわけだから、民間金融機関が得をした分、日銀は損をすることになる。

民間金融機関が保有する準備預金の残高が増加するにともなって、追加的にさらに準備預金を保有する動機はますます乏しくなってきており、民間金融機関に与える得(日銀が被る損)を大きくしないと交換が実現できなくなってきている。その結果、買い入れる短期国債の金利がマイナスでも仕方がなくなったということである。ただし、準備預金には0.1%の金利を払っているのだから、マイナス金利になったからはじめて日銀が損をするということではない。繰り返すと、買い入れる短期国債の金利がプラスでも、例えば0.05%であれば、日銀は損をしていることになる。

拙著『連続講義・デフレと経済政策』(Kindle版も発売中)の第4講のその3「貨幣発行益の枯渇」の中で、「無コストで、日銀がどこまでもバランスシート規模を膨らませられるかのように考える方が間違っている」と記したが、そのことが実際になっているといえる。量的・質的金融緩和は金融調節的には限界に達しているということである。

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池尾 和人@kazikeo