円はプラザ合意前の水準に戻った

池田 信夫

竹中平蔵氏が次のように主張している。

中小企業を対象とした日本商工会議所のアンケート調査では、多くの企業が1ドル=100~105円が妥当と考えており、9月の円安は行きすぎだと考えているようです。私は、必ずしもそうは思っていません。

リーマンショック前の水準から判断すると、1ドル=110円というのは決して「行き過ぎた円安」とは言えないのです。リーマンショック前の株価最高値は約1万8000円(2007年)ですが、その年の平均為替レートは1ドル117.7円でした。


これは間違いである。経済学的には、為替レートの水準は実質実効レートでみるのが正しい。それによれば、図のように現在の円レートは(ドルとの比較では)リーマンショック前を下回り、プラザ合意前の1ドル=240円のころに近い。


名目為替レート(赤)と実質実効レート(青)

これをまだ高いとみるか安すぎるとみるかは諸説あろう。日本企業の国際競争力はプラザ合意の前より低下しているので、まだ下がるという見方もありうるが、それは竹中氏の考えているように株高をもたらすとは限らない。1ドル=110円以上の円安は、岩田一政氏もいうように自国窮乏化である。

竹中氏はマイルドなリフレ派だが、最近は金融緩和をいわなくなったようだ。彼のいっていたようにアベノミクスでデフレは終わり、需給ギャップは縮まったが、それは需要が増えたからではなく、供給が減ってコストが上がったからだ。ニューズウィークにも書いたように、コアCPIの上昇率はほぼエネルギー価格の上昇に見合っている。


消費者物価指数の推移

アベノミクスが失敗した最大の原因は、2009年以降、原油価格が2.5倍になる中で、民主党政権が原発を止めた上に、さらに円安誘導で輸入額を激増させたことだ。LNGの輸入額は震災前より毎年3兆円以上増え、GDPの0.5%を吹っ飛ばした。この供給制約で、日本は今年ほぼゼロ成長だ。それでも安倍政権は、原発に手もふれない。これが日本経済の混迷する最大の原因である。