サウジ主導の宗派間対話は本物か --- 長谷川 良

アゴラ

ウィーンに事務局を置く国際機関「宗教・文化対話促進の国際センター」(KAICIID)のクラウディア・バンディオン・オルトナー事務次長(オーストリア元司法相)への批判が高まってきた。直接の契機は、オーストリア週刊誌プロフィール最新号とのインタビューの中で、事務次長はサウジの少数派への弾圧、公開死刑、女性の人権蹂躙などに対する批判に対し、反論するどころか、擁護したからだ。

▲オルトナー事務次長(KAICIIDのHPから)


サウジアラビアは今年に入り既に60人が毎金曜日に死刑されたが、事務次長は「毎金曜日ではない」と答え、欧州社会の死刑廃止論を完全に無視、女性の権利については、「自分はサウジを訪問したが、女性だからといって差別されたことはなかった」と述べている。オーストリアのメディアばかりか、人権団体から激しいブーイングが飛び出したわけだ。オルトナー事務次長自身は司法相時代、死刑反対論者として知られていた。

同国際センターは昨年11月26日、サウジのアブドラ国王の提唱に基づき設立された機関で、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教の世界5大宗教の代表を中心に、他の宗教、非政府機関代表たちが集まり、相互の理解促進や紛争解決のために話し合う世界的なフォーラムだ。昨年11月の設立祝賀会には日本から立正佼成会の庭野光祥・次代会長が出席した。

サウジ主導の同機関に対しては、設立当初から批判の声が挙がっていた。サウジのイスラム教は戒律の厳しいワッハーブ派だ。実際、米国内多発テロ事件の19人のイスラム過激派テロリストのうち15人がサウジ出身者だった。同国ではまた、少数宗派の権利、女性の人権が蹂躙されていることもあって、人権団体やリベラルなイスラム派グループから「国際センターの創設はサウジのプロパガンダに過ぎない。KAICIIDを閉鎖すべきだ」という声も出ている。

2年前の設立祝賀会では、サウジのファイサル外相が「さまざまな宗派が結集するセンターは歴史的な役割を果たしていくだろう」と期待を表明。ゲスト参加した国連の潘基文事務総長は「宗教リーダーが紛争解決で重要な役割を担っている」と激励したことはまだ記憶に新しい。

ちなみに、サウジはここにきてイスラム教スンニ派過激テロ組織「イスラム国」(IS)に対して批判し出したが、シリア内戦では反アサド政権グループで戦っていたISを支援していたことは周知の事実だ。

いずれにしても、オルトナー事務次長は司法相を務めた人物だ、その事務次長がサウジの反体制派への弾圧、女性の権利蹂躙に対して何も言わないことから、「高給ポストを失いたくないため、サウジ側に媚を売っている」といった批判まで聞かれる有様だ(事務局長はサウジのファイサル前文部次官)。オーストリアのクルツ外相は、メディア、人権団体のKAICIID批判の高まりを懸念し、沈静化に乗り出す構えだ。

なお、KAICIIDの報道官は当方の電話質問に応え、「事務次長の発言はKAICIIDの公式見解ではない。あくまで個人的見解だ」と説明した。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年10月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。