当方は、新幹線に乗り、移り行く景色を眺めながら駅弁を味わいたいと久しく願ってきた。10年前に帰国した時はチャンスだったが、なぜか実現できず、ウィーンに帰国した。「中国の夢」を吐露した習近平国家主席流にいえば、新幹線で駅弁を食べるのが“当方の夢”だ。 「中華民族の偉大なる復興」という習主席の「中国の夢」のように、隣人(隣国)に迷惑をかけたり、危険を感じさせることなどまったくない、異国に住む日本人のささやかな夢だ。
なぜ、突然、新幹線と駅弁が飛び出したかというと、新幹線が開通して今月で50年を迎えたが、その半世紀の間、一度として人身事故が発生しなかったというというニュースを聞いて驚いたからだ。反日報道が多い韓国最大手紙、朝鮮日報日本語電子版は26日、「50年間事故ゼロの新幹線」というタイトルのコラムを掲載し、日本の安全システムのすごさを紹介していたほどだ。
同コラムは「新幹線は最初から、個々の安全システムをただ寄せ集めたわけではなかった。一つの統一された安全システムとして設計された。これが原点だ。そのために、大規模な事故を起こすことなく運行を続けているのだ」という東日本旅客鉄道(JR東日本)会長を務めた山之内秀一郎氏(故人)の言葉を紹介していた。山之内氏によると、新幹線は衝突の危険が感知された場合、自動的にこれを確認し、列車を止めるシステムを世界に先駆けて導入したという。これにより、乗務員が信号の確認を怠ることによる事故発生の可能性をほぼゼロにすることができたというのだ(朝鮮日報)。
朝鮮日報が新幹線の話を紹介する背後には、橋や建物が突然崩れ落ちるといった類の事故が頻繁に起きる韓国社会の安全システムに警鐘を鳴らす狙いがあるのだろう。300人以上の犠牲者を出した旅客船セウォル号沈没事故を見ても分かるように、事故が発生する度に魔女狩りのように責任を追及するだけで、具体的な安全対策に関する議論は後になってしまう傾向が韓国では強いからだ。
コラム記者は最後に、「新幹線が50年にわたり、死傷者を出す事故を起こさず運行を続けてきたのは、過去の鉄道事故の原因を分析した後、あらゆるシステムにどのような弱点があるかを徹底的に分析したからこそ成し得たものだ。新幹線とは、そのような分析を基に、長期的かつ大規模な計画の下で策定した安全システムだ」と評している。
まとめると、人間はミスを犯す存在という前提の上で、いかにその危険を最小限にする安全システムを構築していくかが重要だ、というのが「新幹線50年、事故ゼロ」の教訓というわけだろう。日韓両国は過去の歴史問題に多くのエネルギーを消費せず、両国が得意とする分野で相互に学び合うことができればどれだけいいだろうか。
いずれにしても、事故ゼロの新幹線に乗っておいしい駅弁を堪能できる日本人は本当に幸せな国民だ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年10月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。