東電「黒字化」の影響を考える --- 岡本 裕明

アゴラ

日経の企業決算の観測記事は比較的信頼度が高いのですが、その中で東京電力の2015年3月期が今の状態で1250億円の黒字になることがすっぱ抜かれました。これを受けて月曜日の株式市場では久々に東電に電燈がともり16%の大幅上げを記録しました。

この記事について角度を変えた視点での解説はあまりないと思いますので今日はこの点を取り上げてみたいと思います。


まず、東京電力は柏崎原発の再稼働を「前提」とした事業計画を作成しております。これは当然であって、対政府、新潟県、金融機関、顧客、関係者に対して柏崎原発の再稼働が東電にとって真摯で必ずなくてはいけない前提条件であるという姿勢を見せなくてはいけないからです。私が社長でもそうします。

ただ、企業はfail safeといったバックアッププランを立てるのも当然です。地元の同意がなかなか取れず、日本全体の原発の再稼働も進まない環境下で2014年7月から再稼働する計画は絵に描いた餅であり、そのプランが機能しにくいことも認識していたはずです。

東電は昨年、柏崎の再稼働の申請をしていましたが、当時、官側の人的体制が十分ではなく、優先順位をつけるという事で話が進んでいました。そして全国の原発の中で九州の川内を含む数基が再稼働第一候補に上がり、柏崎は入っていませんでした。その先行再稼働するはずの数基も一時期は夏の再稼働かと言われたものの、今だ動かず、年内の可能性も薄くなってきています。この現状を考えれば柏崎を計画に盛るプランAと動かない場合のプランBでは実質的にプランBが好む好まざるにかかわらず、唯一の選択肢であると幹部は十分把握していたと思います。

そこでコスト削減の対策に出たわけです。もともと東電は7月に柏崎が動かなければ150億円の赤字予定でした。つまり、日経の観測記事が正しいとすれば柏崎が動かないにもかかわらず1400億円改善したわけです。そして、個人的にはこの改善幅は更に上振れする可能性が高いとみています。それは原油価格の下落であります。本稿を書いている月曜日のニューヨーク時間の昼頃で既に79ドルの攻防となっており先週末比で1.7%下落、安値圏に再び突入しています。

原油価格については政治的理由もあり、更に下落する余地が高くこれは電力各社にとっては恵みの雨となります。これに円安が仮に軌道修正されれば東電は立派な再生会社になり替わるはずです。

ただ、そこには大きなジレンマが生じてしまいます。

原発がなくても電力会社はやっていけるじゃないか

というボイスであります。つまり、東電が頑張れば頑張るほど、原油価格が下がれば下がるほど日本で原発の再稼働が難しくなるのであります。これは現政権にとっては実に面白くない話となるはずで世の中に原発の議論が再燃することも大いにあり得るのです。

折しも想定外の太陽光発電の爆発的増加、小規模の石炭火力発電所、更には風力発電から地熱発電まで原発事故までほとんど考えられなかったような「エネルギーブーム」で将来の予見すら難しくなってきました。

ロシアはパイプラインを北海道に引くというラブコール、北米からのシェールのLNGは既に「完売」状態となっており、更に日本と一心同体のカタールからのガスが安定供給が維持されれば電力会社の当面の危機からは安どの声が出てきてもおかしくありません。

私は東電の今回の好決算見通しは保守的な見通しがたたったと思われ、今後の値上げは厳しいものが出てくるかもしれないと思っています。但し、同社の社内体質が大きく変わり、本当の利益を生み出せる「新生 東電」となってくれればそれの方がずっと良いと思っております。

今回の黒字観測は様々な意味で議論を呼ぶかもしれませんが、経営というレベルで見れば頑張り過ぎてややっこしくなってきたかな、というのが印象であります。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。