資本主義の不平等化は避けられない - 『大格差』

池田 信夫
タイラー・コーエン
エヌティティ出版
★★★☆☆



1980年代以降、格差が拡大する現象が先進国に共通にみられるが、これには次のような原因が考えられる:

 1. 技術革新
 2. グローバル化
 3. 資本蓄積

このうち1と2は、新古典派的な限界生産力説である。コンピュータの性能が指数関数的に上がるとき、それと補完的なソフトウェアのコーディングなどの仕事への需要は増え、賃金が上がるが、コンピュータと代替的な事務作業はなくなり、ホワイトカラー中間層の賃金が下がる。

グローバル化による要素価格均等化は、この不平等化を世界的規模で進める。単純労働は先進国から流出し、賃金は新興国に引き寄せられる。世界規模でみると最貧層が減って所得は平等化するが、先進国内では単純労働者の賃金が下がって不平等化する。3はマルクスの説明だが、最近ではピケティが主張している。

本書は1をメインと考え、2は理論的にはありうるが、アメリカではまだ影響は大きくないという。3はまったく無視しているが、これはピケティの英訳が出る時期と重なったためだろう。著者は書評を書いているが、的はずれだ。

日本では生産要素の流動性が低いので、よくも悪くもアメリカほど格差は広がっていないが、2の影響が相対的には強い。1の影響は非正社員に集中し、時給が弾力的で労働生産性によって決まるので、本書もいう実質賃金の低下が著しい。3は資本市場が機能していないので、ほとんど見られない。

いずれにしても、資本主義の不平等化は避けられない。平等化する要因がないからだ。本書の説明はさほど独創的とはいえないが、論点整理としては役に立つ。ただし巻末の「リフレで格差は解決する」という解説(若田部昌澄)がお笑いなので、★一つ減点した。