冨山和彦氏のG型/L型モデルでみると、日本経済の問題がすっきり整理できる。今まで経済学者も官僚も、G型が無条件にいいと信じて「スーパーグローバル大学」などの恥ずかしい政策を打ち出し、それに反発する側は、本書のように「反グローバリズム」をとなえる。
本書は「原発をやめてもバイオマスで経済は回る」という主張である。もとはNHK広島のローカル番組らしいが、テレビ的な「おもしろ話」ばかりで、マクロ経済をみていない。経産省の資料でもわかるように、バイオマスは電力の0.5%にも満たない。木材でG型産業が成り立たないことは自明である。
G型は労働人口の2割に満たないが、GNI(GDP+企業の海外収益)でみると3割以上を稼いでいる。ピケティも指摘するように、グローバル資本主義はGDPではなく国民所得(GNI)でみることが重要だ。海外収益は直接には国内の雇用を生まないが、企業の投資を増やして成長の源泉になるからだ。
今後も労働人口の中ではG型の比率は下がっていくが、GNIベースでみたG型の比率は上がってゆくと思われる。G型企業はL型と妥協せず、世界最適生産すべきだ。トヨタのように「国内生産300万台」という目標を設定してがんばると収益率が落ち、日本経済を支えられなくなる。
問題は、L型が「負け組」にみえることだ。冨山氏も指摘するように、地方から若者がいなくなる最大の原因はそれだが、都会に出て行ったら「勝ち組」になれるというのは錯覚だ。実際には、ほとんどの人は都会でも居酒屋やコンビニでL型の労働者になるしかない。
これが「都市/地方」という分類より「G型/L型」のすぐれている理由である。これからは「地方創生」ではなく、都市の中のL型労働が増えるのだ。それはITで単純化され、時給ベースで新興国と競争する低賃金労働になる。それは労働者を幸福にしないというのが本書の主張だが、そういう「グローバリズム」のきらいな人は「里山」で暮らせばいい。
しかしL型だけでは、高齢化する中で社会保障が支えられないので、G型産業にがんばって働いてもらう必要がある。この意味で、安倍首相が一人当りGNIを経済政策の指標にするとのべたことは――彼は意味を知らないだろうが――重要である。
G型のスーパーエリートは人口の数%の、超競争的でリスクの大きい世界だ。ほとんどの人は、そういうストレスの多い生活が快適だとは思わないだろう。普通の人は、L型のほうが好きなのではないか。「国民所得-ストレス」を幸福度の指標と考えると、毎年3万人近い人が自殺する日本は、あまり幸福とはいえない。
本書の内容は経済学的にはナンセンスだが、これがベストセラーになるのは、多くの人々が実はL型を好んでいることを示唆する。江戸時代には人々はそれで300年も暮らしたのだから、日本人に向いていることは明らかだ。そろそろ「G型幻想」を捨て、のんびり暮らすL型ライフスタイルを考えたほうがいいのではないか。