景気がよくなれば財政は黒字になるのか

池田 信夫

増税先送りを主張する人は「先送りで名目成長率が上がれば、税収が増えて財政は黒字になる」という。これは昔の「上げ潮派」の主張で、論理的には正しい。リーマン・ショックのあと成長率が回復したので、プライマリーバランス(PB)の赤字は縮小した。問題は、それが均衡するためにどれぐらいの成長率が必要かである。



これは消費税率10%とした場合の財務省の中期財政計画のシミュレーションである。名目成長率が3%としても、2020年度に9.4兆円の赤字が残る。現実的な1.5%だと14.1兆円の赤字だ。しかもここでは歳出が毎年1.1~1.4兆円伸びると仮定しているが、この数字でも2014年度から15年度に2.2兆円増えている。

つまり名目成長率3%という楽観的なシナリオで、消費税率を10%に上げても、PBは2020年に黒字にならないのだ。現実には今年は実質ゼロ成長なので、インフレ率1%がほぼ名目成長率だ。来年はもっと悪くなる。この1.5%シナリオにも届かないというのに、消費税率を上げなかったらPBの赤字は拡大し、財政赤字は発散する。

そしてニューズウィークにも書いたことだが、人口の減少する日本では、増税を先送りすればするほど社会保障の不公平は拡大し、一人当りの国民負担が増える。財政にフリーランチはないのだ。