日本人はインフレを望んでいるのか? --- 岡本 裕明

アゴラ

時々日本に来る際、空気を読むようにしています。そこには統計や指標に表れない変化の兆しやヒントが隠されているものです。大局的には社会や経済、法制などの変化が起因となりますが、人々がそれにどう反応するかというのはタイムラグの後、多少のブレを経てからある方向性が出やすいものであります。

今回東京で感じたのは大きく二つ。

一つ目は物価が明らかに上がってきていること。ひょっとしたら毎日目にしていると気が付かないのかもしれませんが、間をおいて見るから感じる変化というのもあります。スーパーマーケットに行けばあれ、この値段、こんなにしたかな、と思う値札をみて手が引っ込むということでしょうか?


特に私は価格についてカナダやアメリカのそれと比較してしまいますので日本の食材がいかに高いかはかなりはっきり認識しています。たとえばパスタなどはざっくり実勢で北米の2倍以上の価格差になっています。もちろん、北米の場合、一つの容量が大きいことで価格が低く抑えられていることもありますがそれでも差は大きすぎます。野菜なども品質が違うといえばそれまでですが、ものによっては数倍の差が出るものもあります。

レストランもランチなどでは価格勝負のところが多いのですが、先日、格安で有名な某レストランチェーンの店で600円程度のランチを頂きました。店は立派です。きれいにしているし、インテリアもこじゃれています。しかもライスも大盛りは無料だし、スープも飲み放題です。しかし、正直、明らかに失望したのは具がほとんどないスープ、ペラペラのハンバーグ、量を多く見せるためキャベツがやたら多いことでしょうか? それでも客はどんどん入ってくるこの店に客の期待は何なのだろうと思った時、やはり多くの方にとってお財布の具合と快適さの最適バランスを求めているのでしょうか?

カラオケボックス。どこの繁華街でも見かける今や当たり前の娯楽でありますが、その価格は正直、ありえないものであります。1時間100円台でソフトドリンク飲み放題。ちなみにある店に一人で入ったところ、一時間260円でソフトドリンク飲み放題でした。3畳ぐらいの部屋で最新式のマシンを相手に2時間遊んでも500円ちょっと。一人客は敬遠されるのかと思いきや、早い時間は一人客が案外多いらしく、自分の楽器を練習する人、オペラの練習をする人などもみられ、噂に聞いていた「ひとカラ」とはこういう事かと納得した次第です。今や名画座も500円では見られない中、カラオケボックスは絶好の格安娯楽となったのでしょうか?

日本の人がこれを読んでも「だから?」とおっしゃるかもしれませんが、外国ではありえない物価水準であることは力説しておきます。

デフレに慣れ親しんだ日本人にとって本当にインフレを望んでいるのか、それがふと疑問視されてしまうのです。実は黒田バズーカ砲で喜ぶのは投資家だけで実社会にインフレというお荷物だけもらってはたまらないと思っている人は案外多い気がします。専門家はタイムラグがある、賃金上昇が今後、伴うというでしょう。しかし、一般の人は今日、明日の生活の話をしているという点で目線の位置が違うことは認識すべきでしょう。

もう一つ、気になったのが住宅地に更地が急速に増えていること。都内の住宅街に行けばあちらこちらで解体現場や更地になった土地を見かけるようになりました。まるでバブルのころの地上げで虫食いになった更地のシーンを思い出します。50坪以上ある家ならば買い手は住宅開発会社で手っ取り早く購入して複数区画で安く販売していきます。

これが意味するのはちょっと広い戸建て用地に個人のお客さんの買い手はつかないということでしょう。23区内で仮に30坪、単価200万円とすれば土地だけで6000万円。ここに建物を建てれば様々な付随費用も入れて9000万円近くになります。これをサラリーマンのローンで賄うのはよほど頭金が多いか、買い替えで売却資金を手に入れた人ではないと無理ということになります。

長期にわたるデフレがもたらしたのは消費力の低下と世代間を通じた個の資産の縮小化かもしれません。もちろん、デフレが先か、賃金の下落が先か、という卵と鶏のような話はありますが、それよりも多くの方のマインドセットが簡単に戻らない気がします。より小さい家に住み、より倹約な生活をしなくてはいけないであろう将来像を清貧という言葉で収めてよいのでしょうか? 先日、東京の美容室での会話が印象に残っています。「女の人はそれでも外に出るからいいよの。男の人はリタイアしたらみんな家から出てこない。」

この話が日本の象徴でなければいとは思いますが。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。