景気動向よりも企業努力のほうが結果を左右する

大西 宏

GDPが2期連続でマイナスとなり、景気動向、消費税アップの先送り、また解散総選挙とマスコミが賑わっています。しかし、気をつけておきたいのは、景気動向がマインドに深く刷り込まれてしまうことです。ひとつひとつの企業にとっては、景気動向は外部環境の変化のひとつに過ぎず、よほどの基幹産業でもない限り、景気動向よりも、環境変化のなかでなにを行なったかの企業努力の結果による影響のほうが大きいはずです。それは 消費税増税前の駆け込み需要の影響が大きかった自動車産業でも個々の企業の業績の差で確かめることができます。


国内の自動車(軽自動車を含む)新車月別登録台数の対前年同月比の推移を見ると、あきらかに駆け込み需要が大きかったことがわかります。しかし消費税増税の4月以降を見ると、いったん6月には100.4%と前年並みに回復したものの、7月、8月と対前年割れが続き、また9月には99.2%に回復し、10月にまた落ち込むという推移をたどっています。

業界全体を見れば、駆け込み需要の反動減からまだ抜け出せず、もたついていることがわかります。しかし、メーカー別に見てみるとまた違った風景が見えてきます。

ひときわ目立っているのがホンダです。4月以降も目をみはるような絶好調が続いています。駆け込み需要の反動減が始まった4月も172.4%で、5月も164.3、その後も快挙が続きます。理由は前年にモデルチェンジをしたフィットやオデッセイ、また新車投入したクロスオーバーSUVヴェゼルが好調で、反動減どころか、販売台数増に大きく寄与したからです。しかし、9月にはいってその好調が失速しています。リコール問題が足をひっぱったのです。

スバル(富士重工)の反動減の影響は、4-6月の3ヶ月だけで、その後は回復し、10月も110%でした。4-6月の減少も、もしかすると北米販売が好調なので、国内よりは北米を優先し、精算を輸出に振り向けた結果かもしれません。

マツダも反動減が続き、10月にはいってようやく115.7%と回復しています。クリーンディーゼルで注目されているデミオの効果でしょうか。一見はそう見えるのですが、2015年3月期の第2四半期(4-9月)の決算報告資料を見ると、北米、欧州、中国で対前年同期比が2桁増と好調で、グローバル販売台数が6%増となっています。こちらも、駆け込み需要の反動減を見越して、国内よりも海外を優先した結果という印象を受けます。

駆け込み需要も取りそこね、さらに反動減の煽りをもっとも受けたのが日産です。このところ、日産の元気のなさが気になるところです。日産の不調の原因は消費税とは別の要素でしょう。

トヨタがいまひとつの状態を続けていますが、こちらも新車投入やモデルチャンジの谷間の時期ということと、また絶好調だったアクアが、ホンダのフィットとの競合に巻き込まれた影響もあったと思われます。

こうやって個別に見てみると、消費税の増税の駆け込み需要の反動減があったとしても、それよりも企業努力の結果のほうが大きいことがわかります。

繰り返すなら、景気動向は環境変化のひとつに過ぎません。企業はもっと多くの、さまざまな環境の変化のなかで活動をしています。経営は、それらの変化のなかで、どの変化を商機として取り込み、あるいはテコにして業績を伸ばすかの勝負です。しかも企業が小さければ小さいほど、小さな変化をも嗅ぎ分け、それをチャンスに置きかえる知恵が求められているのだと思います。

エコノミストや政治家でもない限り、景気を気にするよりは、お客さまの潜在ニーズをとらえるためには何をすべきか、どうすれば業績を上げることができるかに意識を集中したほうがはるかに健全ではないでしょうか。