スターバックスは12月5日、苛烈を極めるコーヒー市場の王者たるべく大きな一歩を踏み出しました。
本社があるワシントン州シアトルに、「スターバックス・リザーブ・ロースタリー(Starbucs Reserve Roastery)」を開設したのです。自動車工場跡地に建てた1 万5000平方フィート(1394平方m、約422坪)もの巨大コンプレックスは、もちろん単なる店舗ではありません。ハワード・シュルツ最高経営責任者(CEO)が満を持して送る、超大型コーヒー焙煎工場なのです。
重厚な木造りのドアを開き、「スターバックス・リザーブ・ロースタリー」へ招き入れたシュルツ最高経営責任者(CEO)兼会長いわく「コーヒーという垣根を越え、映画やロマンス、ドラマのようなあらゆる感覚に訴える世界でただ一つの経験を届けたい」。目指すは、「ウィリー・ウォンカのコーヒー」だと断言します。
世界中の人々をトリコにするため、えんやこら~。
ウィリー・ウォンカとは、ロアルド・ダールの児童小説”チョコレート工場の秘密”に登場する天才ショコラティエで工場長。2005年に映画化された「チャーリーとチョコレート工場」ではジョニー・デップが演じていましたっけ。いわばウォンカがチョコレート工場で作る夢のお菓子、コーヒー版という位置づけなんですね。
もちろん製造過程を目で楽しむだけの施設では、ありません。豊かな香りに包まれ、コーヒーを味わい、お気に入りコーヒー豆パックを手にすることができるコーヒー党のワンダーランドなのです。お腹が空いたあなたのために、季節のビザもご用意。シェフの登竜門”ジェームス・ビアード”受賞者、トム・ダグラス氏が手掛ける”シリアス・パイ”からお届けなので、アツアツさくさくのピザを頬張れるというものです。
最新鋭の機器を投入し、パーフェクトな一杯を目指す。
ワンダーランドでの手作り焙煎コーヒー価格は、1杯3—6.5ドル(約360—790円)。通常店舗での価格を40-50%上回ります。コーヒー豆パックも8オンス(226.8g)で13ドル(約1570円)から始まり、上質を知る人向けの逸品となれば50ドル(約6050円)に及びます。そう、理想の味はお手頃価格からかけ離れているからこそ特別なんです。
特上のコーヒーを淹れるため、研究者のごときバリスタ達。
「スターバックス・リザーブ・ロースタリー」から遠く離れた場所にお住まいの皆さま方、ご心配なく。愛好家憧れの焙煎工場で製造されたプレミアム・コーヒーは、2015年から全米に散らばる約1万2000店のうち1500以上の店舗で販売が開始されます。今後はニューヨークやワシントンD.C.といった都市部へ進出するほか、2016年にはアジアを手掛かりに海外展開する計画で、スターバックスの野望もとい夢は広がるばかりなんですね。
スターバックスが4日に開催した投資家会合で、2019年までの売上高目標を300億ドル(約3兆6300億円)と掲げました。マクドナルドといった大手からクオリティを追求した新ブランドまで参入しコーヒー市場で競争が激化するなか、5年で約2倍の売上を達成するのに普通の手段など使ってられません。カフェインの量以外で、勝負が迫られます。
野心的な目標を達成すべくランチおよびディナーのメニューを充実させるほか、一部で試験運転していたモバイル・オーダーを開始させる予定です。スマートフォンなどで事前に店舗にアクセスして注文しておけば、一定時間後にピックアップできるという画期的なシステムなんですね。週当たりのモバイル決済は700万件といいますから、スターバックス・プリペイド・カードおよびアプリと連動させ売上拡大に貢献する可能性大です。
行列に並ぶ面倒を省いてくれる、モバイル・オーダー。
そのほか以前から噂されていたアルコール販売への本格参入を計画しており、夜間の売上拡大を狙います。朝食、ランチとは別に夜食スナックも用意するといいますから、来年中に24時間営業もありえる?JPモルガンが5日に目標株価を82ドルから89ドルへ引き上げたはずです。個人的にはコーヒーが苦手なので、もう少し紅茶系を充実して下さるとありがたいのですが……。
(文中、カバー写真すべて:Starbucks)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年12月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。