再エネ政策の大転換点 ~系統WG議論まとめ~ --- 宇佐美 典也

アゴラ

経済産業省が新エネルギー小委員会系統ワーキンググループで今後の電力系統網への再生可能エネルギー導入の方向性について大枠を示したのでこれまたまとめておきたい。(資料は全て同会議からの引用)

まずこの「系統ワーキンググループ」の設置の意義なのだが九州電力などが太陽光発電の買取申請を一時凍結したタイミングで設置され、果たして各電力会社にどの程度の再生可能エネルギーの導入余地があるのかを明らかにする目的で設置された。そのためここでの議論で示された数値が各電力会社の系統の再生可能エネルギーの受け入れ余地の上限となる見込みが高い。

その意味で日本の再エネ政策の今後を左右する非常に重要な会議といえる。議論の内容は以下の通りだが、「再エネを増やせ増やせ」の一辺倒の時代から「電力システムと再エネ政策のバランス」を考えさせられるようなクリティカルなものが多く、再エネ政策は転換点を迎えたといってもよさそうだ。

各電力会社の接続可能量と認定量

結論から言うと各電力会社(東電、関電除く)の太陽光発電・風力発電の接続可能量は以下のように示された。これらは電力会社の申請に基づいて算定されたものである。なお各電力会社は原子力発電の稼働、揚水発電の昼間の利用、風力発電の地域連携線の利用、30日以内の出力抑制、を前提として数値を算定している。

太陽光発電だけに焦点を当てると

北海道電力が1.17GW

東北電力が5.5GW

北陸電力が0.7GW

中国電力が5.58GW

四国電力が2.19GW

九州電力が8.17GW

の受け入れ容量があるということになる。この数値をどう評価するということなのだが、太陽光発電の設備申請の認定量、そして稼働量との比較から考えてみることにしたい。ということで、地域別にそれぞれの設備認定量、稼働量をみてみると以下のとおりである。(経済産業省の2014.9月の資料より引用しておりデータは少し古い)

北海道:認定/2.919GW 接続/ 1.17GW 稼働/0.31GW

東北 :認定/10.873GW 接続/5.50GW 稼働/0.66GW

北陸 :認定/0.933GW 接続/0.7GW 稼働/0.18GW

中国 :認定/5.11GW 接続/5.58GW 稼働/0.912GW

四国 :認定/2.346GW 接続/2.19GW 稼働/0.565GW

九州 :認定/17.917GW 接続/8.17GW 稼働/2.406GW

これを見ると、北海道、東北、北陸、四国、九州が【認定量>接続可能量】、中国地方は【接続可能量>認定量】という状況になっている。(ただ前述の通り認定量のデータは少し古いので現時点で中国地方でも認定が接続可能量を上回っている可能性がある。)

特に北海道、東北、九州は認定の超過分が多いので、おそらく年始から3月にかけて、電力会社が負担金を支払っていない案件の連携承諾を取り消す動きを進めることになると思われる。言い換えればこの時点で権利保有者はあきらめるか、それとも権利を資本力のある他者に譲り渡すかの決断を迫られることになる。これは非常に重大なことだ。全国の権利保有者は覚悟を固める必要がある。一方で稼働ベースではまだかなりの余裕があるので、太陽光発電市場自体はまだ当面の伸びが期待できる。

出力抑制ルールの見直しなど接続可能量積み増しに向けた施策

そのうえで、今後の接続可能量の積み増しに向けた施策として「(1)出力抑制ルールの見直し」「(2)蓄電池の活用」「(3)地域連携線の活用・増強」「(4)再エネの電源間のバランスの見直し」が検討されている。このうち(3)は前述の接続可能量に織り込み済みで、(4)は次の項で述べるとして、(1)~(2)について説明する。

まず出力抑制についてだが現状は500kw以上の発電設備に関しては出力抑制の回避措置としての、電力会社の設備稼働の抑制余剰電力の揚水発電への活用余剰電力の卸電力市場への販売を実施した上での年間30日までの出力抑制が再エネ法施行規則により担保されている。のこれを見直し太陽光発電の受け入れを増やすパターンとして以下のパターンが示されている。

①出力抑制日数の拡大(最大60日までとする)

②出力抑制の時間単位での管理(太陽光360時間、風力720時間)

③出力抑制の範囲の拡大(500kw以下も対象に)

④既接続も含むすべての設備の出力抑制の範囲拡大

⑤(出力抑制回避措置としての)連携線の活用

した場合の試算が示されている。このうち最も効果があるとされたのが②の時間単位での出力抑制であった。おそらく太陽光の360時間というのは【昼の時間(12時間)×既存の出力抑制日数(30日)=360時間】という極めて単純な発想で建てられた式だと思うのだが、実際のところ発電している時間は8~10時間くらいなので実質的には30日と比して出力抑制のキャップが延びることを意味している。

とはいえここで重要なのは出力抑制を日にち単位から時間単位に切り替えることで、大幅に伸びるということなのでそれ自体の効果は喜ぶべきである。出力抑制が今後フルに使われていることを考えると、事業者側に自家消費なり蓄電池なりの調整弁が求められることになるのかもしれないが、この点軽率には言えない。いずれにしろこちらは省令改正事項なので、経済産業省から②をベースにした省令改正案が提示されることになるので、それが示されるのを待つことにしたい。場合によっては再エネ業界が協力してのロビイングに必要になるのかもしれない。

続いて(2)の蓄電池の件だがこちらは

①発電設備1KWあたり1kwhの蓄電池を発電設備側に設置

②発電設備1KWあたり5kwhの蓄電池を発電設備側に設置

③発電設備1KWあたり5kwhの蓄電池を系統設備側に設置

3パターンが示されているが、圧倒的に③のコストパフォーマンスがよい。合理的な結論として「蓄電池は系統側に設置されるので事業者は心配しなくてよい」と考えそうになるが、そうなると疑問なのが「なぜ①の選択肢が用意されたのか?」ということになる。何か裏の意図があるのかもしれないが、これは邪推というものなのかもしれない。

再エネ電源間のバランスの見直し

最後に再エネ電源間のバランスの見直しによる効果だがこちらは興味深い。結論から示すと以下の通り。

この資料は端的に「太陽光発電の導入抑制して水力発電、地熱発電、バイオマス発電を増やせば再エネの導入量を飛躍的に伸ばせる」ということを示している。理屈は単純で、出力×稼働時間、で発電量は決まるため、稼働率が高い電源を系統に接続したほうがより多くの電力を流せるからだ。なんでこんな当たり前のことを資料化したかというと、そのようにする政策的意図があるとみるのが自然であろう。なお地熱と水力は九州電力管内、バイオマスは中国電力管内で試算していることの意味は推して知るべしだ。

以上固定価格買取制度の改正の方向性について概観してきたが、やはりポイントとなるのは

「36円案件の連携承諾取り消し、時間単位での出力抑制への対応」

ということになるだろう。出力抑制の拡大への対応は一部の新電力事業者にとっては大いにチャンスとなると考えられる。なぜかというと、新電力事業者の一部は需要家の省エネコンサルティングから進出しているため、デマンドもコントロールできる余地があるからだ。

こうした新電力事業者にとっては経産省が示しているような遠隔出力制御システムの議論にデマンドコントロールの概念も織り込んで議論を発展させていくことが重要になるかもしれない。

専門的な話になったが、ではでは今回はこの辺で。

追記:

このブログを挙げた直後に経産省が再エネ政策の見直しの方向性について取りまとめた資料を公表してました。前回の記事含めだいたいここに書いてあることと変わってないのですが、また別途まとめます。(http://www.meti.go.jp/press/2014/12/20141218001/20141218001.html)


編集部より:このブログは「宇佐美典也のブログ」2014年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のブログをご覧ください。