今年の良書ベスト10

池田 信夫

恒例のベスト10。このコーナーで★★★★★をつけたものを中心にリストアップした。学問的なオリジナリティより現実的なインパクトを重視して選んだ。

  1. Fukuyama “Political Order and Political Decay”

  2. 冨山和彦『なぜローカル経済から日本は甦るのか』
  3. ピケティ『21世紀の資本』
  4. 平野聡『「反日」中国の文明史』
  5. ウィルソン『人類はどこから来て,どこへ行くのか』
  6. トマセロ『コミュニケーションの起源を探る』
  7. Koopmans “Three Essays on the State of Economic Science”
  8. 古賀勝次郎『鑑の近代』
  9. 筒井清忠『二・二六事件と青年将校』
  10. 川田稔『昭和陸軍全史』


今年も経済学は不作だった。ピケティのように社会に影響を与える本を書くのは、日本では経済学者ではなく、冨山和彦氏のような実務家である。7は60年前の古典の復刊だが、アマゾンの洋書ナンバーワンになった。新古典派経済学が明晰でエレガントな「世界観」を提示した黄金時代だった。

今年は「歴史認識」をめぐって、また不毛な論議が蒸し返された。朝日新聞などの思い込んでいる「アジアへの贖罪」は見当違いであり、そもそも「アジア」という文明圏が存在するのかどうかも疑わしい。日本と中国はまったく違う文明だという内藤湖南の支那論を再発見したのが、4や8のような最近の中国論である。中韓は理解できない国だと理解することも大事だ。

かつての戦争を「軍の暴走」ととらえて「戦争を反省しない軍国主義の安倍首相」という類の幼稚な話は、もうやめよう。9や10は歴史学では通説に近いが、戦前の日本の失敗の原因が意思決定システムの欠陥にあることを示している。安倍首相は、東條英機ではなく近衛文麿に似ているのだ。