両立しない女性の社会進出と少子化対策

岡本 裕明

最近トーンが下がったアベノミクスの三本目の矢、その構造改革として女性の社会進出を促すという目標があります。労働力不足が顕著になる中、女性の社会進出は重要なる潜在的労働力確保であると期待されています。また、共稼ぎにより家計の収入の改善を図り、子供を作りやすくするという発想が原点にあったと認識しています。

女性の社会進出は世の流れですので大いに進めたらよいと思いますが、私は残念ながら少子化を促進させる結果になるとみています。共稼ぎで世帯所得が増えるから子供が作りやすくなるというのは男性が机上で考えた夢物語であります。


人間の歴史を振り返ると男と女の役割は古代から棲み分けされています。狩猟時代は男が獲物を捕りに行き、女が不在の家を守るというスタイルは誰でもご存じのとおりです。それは男と女が生理学的には性別で区別され、それぞれの特性があることを利用し、分業体制を敷いたのであります。

時代の進化は農業を勃興させました。古代の農業は人海戦術ですからたくさんの子供が必要でした。これが人口を増やす第一の理由となりました。そして、古代ローマ帝国を初めとする文明の時代には戦争が世の中を覆い始めます。男手は農機具ではなく兵器を持つのです。当然、戦争に出れば男たちが戻ってくる確率は低くなります。だからこそ更に子供を作り子孫を絶やさないようにしたのがごく最近までの流れです。更には医学が十分に進んでおらず、疾病対策、平均余命もそのファクターでありましょう。

ところが時代が大きく変わった理由がいくつか存在します。
大規模な戦争が70年間起きておらず、多くの先進国では自分が戦争に行くという予見が必要なくなったこと。
産業革命により作業が楽になり、それまで男手の仕事だったものが女手でも可能になったこと。
コンピューターの浸透によりオフィスワークに女性の需要が大幅に増えたこと。
1960年代、サービス産業が第三の産業として立ち上がり、特にアメリカに於いて女性の社会進出を促したこと

学術的には一般に生活のレベルが向上すると量より質にシフトしていくことが認められています。これは家庭内行動でも同様であり、子供の数は5人より3人、それより1人でなるべくよい教育を提供し、食事や住環境などを整え、より完成度の高い子供を作ろうとする傾向になるとされています。先進国の出生率がおおむね低めになっているのはそのためです。

また、経済学的には一度得た生活水準はなかなか落とせないという学説があります。若者が結婚する前に享受したライフを結婚後、共稼ぎの間、更に引き上げたとすれば子供ができることで経済的理由からそれを大きくシフトダウンしにくいのであります。

次に晩婚化があります。女性の社会進出を促すと当然ながら女性の自立を促すため、結婚より職に傾注しやすい傾向が出ます。更に職場において女性と男性の間でかつてなかったポジション争いが起き、結果として能力的に優れる女性が男性の職を浸食し、男性は労働市場から溢れてしまうという結果をもたらしつつあります。

これは女性から見ると男性の社会的地位の不安定感を増長し、結婚より気ままな独身を選択しやすくなる結果を生みやすくなります。

つまり、安倍首相の考える女性の社会進出は少子化を更に推し進めることになり、政府が人口1億人を維持するプランとは真っ向から対立することになりそうです。それ以上に女性の社会進出により弾き飛ばされる男性の職の確保が今後、より一層難しくなる点を忘れていると思います。

日本の50年後の社会を想像した時、社会の変化、経済や産業構造、地球儀ベースの力関係をすべて考察すれば実は一番困ることになるのが男性となる時代がやってくるかもしれません。年配の奥様からすれば今でも既にうちに困った男性が一人いる、と思っているのかもしれませんが。

女性の社会進出と少子化問題は相当難解なことであります。少子化対応についても保育所を作るとか、子ども手当といったインフラだけではなく、もっと学術的な根本に立ち返って十分検討する必要があるでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 2月15日付より