大塚家具の茶番に勝者なし

岡本 裕明

大塚家具という家具屋の知名度がどれ位あるかといえば思った以上に低いかもしれません。いや、名前は聞いたことがあるけれど行ったことはないと答える人はもっと多いかもしれません。「IDC」といえばわかる人もいるかもしれませんが、IDC(= International Design Center)と大塚家具が全く結びつかないのも損なネーミングだと思います。


さて、その大塚家具の内紛劇が白熱しています。大塚勝久会長が長女の久美子氏を昨年夏業績不振を理由に社長を解任し、勝久会長が社長に復帰しました。勝久会長は自分の築いたやり方、つまり、「会員制」と称している経営に戻しました。ところが、それでも売り上げは回復せず、半年後に久美子氏が再び社長に返り咲くという茶番であります。

ところが、思わぬ第二幕は久美子社長(経営側)が新取締役候補から勝久会長を外したため、勝久会長(株主側)がそれに対抗、委任状争奪戦と化し、週刊誌ネタとしてこれから発売される多くの記事のゴシップとして賑わすことになると思います。

会員制と言っても入店して受付で名前や連絡先を記入する登録のようなもので別に病院やネットでモノを買う時と全く同じ程度の手間であります。つまり、本当の意味での会員制ではなく、フリの客を振り払う「露除け」のようなものでありましょう。ただ、問題はそのあとであります。つかつかと寄ってくる販売員が根掘り葉掘りいろいろ聞き出し、好みに合った商品を説明するという前近代的な手法であります。

久美子社長はこのやり方を変えて客が自由に店舗を歩けるスタイルにすると言っているわけです。

個人的に言わせてもらえばこんな家具の売り方では父でも娘でも改善しないと思われます。

先ず、だだっ広い所に家具が並んでいてソファー、ダイニングテーブル、ベッドなど品目ごとにフロアが違うという見せ方が間違っています。客は恐ろしくインテリアに対するセンスに乏しく、自分の家のサイズ、既存の家具とのデザイン、色調などのバランスが取れないものです。ところが家具屋に行けばどれも新品で欲しくなるものです。そこでデザインや色調が全く違ったものを購入してしまい、後で後悔するケースは多いものです。

だからこそ、IKEAのように自分の家の部屋を再現してもらうと分かりやすくなるのです。ニトリも規模は小さいですが、同様のことを真似ています。家のインテリアは海外の場合、カントリー調とかコンテンポラリーといったようにある程度のデザインの統一感がありますし、戸建とコンドミニアム用では家具のサイズが違います。日本でも和室、洋室、戸建、マンションと言ったようにそれなりのカテゴリーはありますが家具屋の店員がそれを聞くことはまずないでしょう。なぜならインテリアデザイナーではないからです。

バンクーバー近郊にはIKEAが二軒ありますが、その周りにはかなり多くの家具屋が並んでいます。IKEAには恐ろしくたくさんの人が訪れますが、その隣の家具屋の前には車がほとんど停まっていません。何故、人はIKEAに吸い込まれるかといえばインテリアデザイナーに代わるアイディアが欲しいのだと思います。また、自分の部屋をこういう風に改造したいという願望も引き出してくれるでしょう。ところが周辺の家具屋は入った瞬間、店員が3メートルの距離を置いてストーカーのごとくずっとついてきます。ある意味、気持ちが悪いのです。それを客は嫌がるわけです。

とはいえ、私はIKEAではもはやまず家具は買いません。理由はデザインと素材がベーシックすぎるからであります。こうなると私の家具は何処でゲットすればよいのか、実に悩ましいことになるのです。

同じことは日本でも当然ながらあります。ちょっとした本棚やサイドボードを探すにしてもIKEAは組立だから嫌い、ニトリは無料で配達してくれるけれどセンスがまだイマイチ、大塚家具の価格はゼロの数が一つ多いのです。要はその中間の程よいセンスの程よい価格帯のものが案外少なかったりするのです。

多くの人にとってダイニングテーブルやソファーは一度買えば20年ぐらい平気で使うでしょう。しかし、人の家に呼ばれてソファーに腰かけたら座る部分が「抜けてた」ことは何度か経験しています。当然、買い替えなくてはいけません。その時、もったいない、愛着があるというならば海外なら、もう一つ、reupholestering(張替)という方法もあります。それを日本でやっているところは少ないでしょう。でも明らかに市場が存在します。

日本の家具は時としてこだわり過ぎていることが多いと思います。結果として価格に反映され、ちょっと手が出なくなります。いかにスペックを落としながらも、客に欲しいと思わせるか、そこが家具店の今後の展開の仕方ではないでしょうか?

それと既存の部屋、家具とのコーディネーションはとても重要でここから入り込めるきちんとした店員の教育、そして最後は店として商品の見せ方に工夫してもらいたいと思います。

個人的にはもっとわくわくして行きたくなるような家具屋が欲しいと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 2月19日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。