老人介護で最大の問題になるのは費用負担である。介護保険や医療保険に入っているといっても、自己負担があり、また、保険外の費用負担もあるからだ。
老人の医療介護費用を払う人は、次の3者である。
1.本人
2.家族
3.政府
認知症なら仕方がないが、たとえ意思決定能力があっても、当然払うべき金を頑として払わない老人が多い。逆に、家族が本人資産を勝手に引き出してしまうことも珍しくない(もちろん違法である)。成年後見制度を使えば、強制的に引き出すことができるが、大半のケースでは、司法手続きや本人の説得がめんどうなので、家族が払ってしまう。
医療介護費用を家族が払うことの問題点は、過小サービスに陥ることだ。本来、払う必要のない金を立て替えているのだから、できれば1円も払いたくない。
逆に、医療介護費用を家族が負担しすぎて、家計が破綻することもある。
家族が立て替えた金は、支払い事実を領収書等で証明すれば、遺産相続時に上乗せしてもらえるのだが、それすら手続きがめんどうなのでやらないことがある。資産評価額は、相続時にならないと確定しないので、立て替え分が戻ってくるかどうかわからない。
老人には、自分が介護してもらえないのではないかという「不安」があり、家族には、老人介護のために家計が破綻するのではないかという「不安」があるのだ。
この不安を取り除く方法は、老人とその他の家族との間で、世帯分離を行い、一切の支出は本人に払わせることである。
「世帯」とは「生計を一(共)にする単位」のことだ。戸籍や血縁とも関係ないし、同居しているかどうかも問題ではない。財布が共通ならば「世帯」なのである。
世帯分離といっても、家族の縁を切るとか、戸籍を抜くとかいうことではない。住民票を変更することである。わかりやすく書けば、こういうことである。
家族 → 戸籍
世帯 → 住民票
世帯分離をしたい場合は、「世帯変更の届け出」を市町村で行う。別居していれば、ほぼ無条件で通るし、同居してる場合も、生計が別であることを証明できれば、世帯を分離できる。施設入所している要介護老人ならば、もちろん可能である。
世帯分離をすることで、以下の効用が生じる。
1. 世帯が老人単身になると世帯所得が減少し、医療と介護の自己負担は少なくなる。
2. 税や社会保険料の減免措置が受けられる。
3. 支払額が老人本人の所得資産の範囲に限定される。資産がなくなれば、生活保護となり、医療介護の自己負担はゼロとなる。
問題は、同居老人の世帯分離が難しいことである。同居している場合、生計が別になっていることの証明は厄介である。同居家族がいれば、老後の世話をしてもらえて安心だと思っている人々が多いが、医療介護の費用負担においては、老人が家族と同居している方が不利になるのである。