古賀茂明氏の被害妄想ワールド

池田 信夫


古賀茂明氏が「報道ステーション」で、番組と関係なく「テレビ朝日の早河会長とか古舘プロジェクトの佐藤会長の圧力で降ろされるのは残念だ」という恨み節を語り始め、最後は”I am not ABE”という(局に無断で)自分でつくったプラカードを掲げる珍事件が起こった。前後15分近く、出演者が私怨をぶちまけたのは放送事故に近い。


奇妙なのは、彼が今回で降ろされるという事実関係がはっきりしないことだ。古舘氏もいうように4月以降も、話題に応じて出てもらう可能性もあった(この事件でなくなっただろうが)。古賀氏のいう「菅官房長官から局に圧力がかかった」ということもありえない。私はNHKの『日曜討論』というもっとも政治的圧力の強い番組を担当していたが、政治家が出演者をおろせなどということは絶対ない(あったら大事件になる)。

彼は政治とメディアの関係を誤解しているようだが、報ステのような番組に政治家から圧力がかかることはありえない。自民党担当の記者が夜回りしたとき「古賀さんは過激だね」ぐらいのイヤミをいうことはあるだろうが、彼らも露骨な干渉はしない。むしろスタッフが恐れるのは、今回のように打ち合わせにない話をしてプラカードまで出すような「危ない出演者」である。

私の印象では、古賀氏はテレ朝の左翼路線に迎合して「角度をつけ」過ぎた結果、局の許容範囲を超えたのではないか。民放はエンタメなので反権力は商売だから、あまり極左的な話は困る。古賀氏はもともと地味なキャラクターなので、「安倍首相が軍事大国をめざしている」という類の陳腐なコメントでは数字が取れない。

気の毒だが、これで彼のテレビタレントとしての生命は終わったと思う。著書も最初の『日本中枢の崩壊』以外はステレオタイプの左翼本で、出版社にとっても旬は過ぎた。そして売れなくなると、彼は「政府筋の弾圧だ」などと――彼の唯一のメディアになった――ツイッターでつぶやくのだろう。