札幌医科大学教授 理学博士
(上)より続く。
出席者の主な発言要旨
以下、読者の皆さんに役立つ発言の要旨を抜粋します。
福島20km圏からの緊急避難者の震災時の外部被曝は5mSvと低線量で、福島県全体としても震災元年の線量は概して5mSv以下。また放射性ヨウ素の吸引などによる甲状腺の内部被曝は40mSv以下と低線量。広島・長崎の生存者8万人の疫学調査から臓器線量200mSv以上で発がんリスクが高まるので、福島県民の放射線による発がんリスクは無いとの結論できます。チェルノブイリの黒鉛炉事故の線量にくらべて、軽水炉事故だった福島県民の線量は、100 分の1から1000分の1と少ないのです。(高田)
チェルノブイリ黒鉛炉事故では核反応が暴走し、原子炉が一気に崩壊し黒鉛火災になり広範囲に高線量となりました。それに対し、東北で稼働していた全ての軽水炉は地震波を検知して自動停止しました。ですから福島第一原発でさえ低線量でした。この原発では、原子炉構造は損傷したものの、構造は維持しています。ウラン燃料の炉心が溶け落ちた「メルトスルー」事故です。冷却に成功した女川および福島第二原発では事故の影響によってゼロ線量です。歴史的な検証から軽水炉事故は低線量と一般化できますので、防護対策としては、屋内退避とヨウ素剤服用が原則になります。無謀な緊急避難こそ、危険ということが福島の事例で分かったことです。(高田)
放射線情報の混乱の背景に、LNT仮説があります。これは、広島・長崎の原爆生存者の疫学調査結果から、この仮説は間違っていると証明されています。また逆に、低線量被曝が発がんを防止する効果も見つかっています。従来のLNT仮説は、ビルの屋上から飛び降りるリスクから、階段1段(およそ30cm)のリスクを想像するような馬鹿げた論拠なのです。とんでもない非科学です。低線量の正しい健康影響については、大規模な教育キャンペーンを今こそ立ち上げるべきです。(ドス)
国際放射線防護委員会は、職業的な放射線作業従事者の年間線量限度を50mSvとするものの、一般公衆に対しては年間1mSvとのものすごく厳しい規制を課しています。急性放射線障害の発生は概して1000mSv以上で、発がんリスクは200mSv以上で初めて発生するのに、1mSvの低線量での規制は異常と言わざるを得ません。(高田)
細胞は活性酸素によって常時自然放射線の約1000万倍の攻撃を受けるほど、生命の敵は活性酸素です。生命は太古の昔、環境放射線がもっともっと高い時代に誕生し進化してきました。生命の本質である分子DNAは放射線が大好きで、今の自然放射線の線量率の1万倍から600万倍もの高い領域にDNA異常発生率の極小値があります。低線量被曝のリスクを主張するLNT仮説を容認するICRPの勧告はもってのほかと、マイロン・ポリコーブ博士は発言しています。今こそ、政治と科学に橋を架ける大工事を日本からはじめ成功させるべきです。(服部)
太陽の核エネルギーの放射なしに、地球の生命の誕生と維持は成り立ちません。紫外線による体内ビタミンD合成は健康維持に必須です。レントゲン博士のX線の発見から始まるノーベル賞の歴史は核放射線の発見と応用の歴史でもあります。放射線なしに今の文明はありえません。人類の寿命を延ばしてきたのもこの技術の利用にあります。(高田)
現在日本では、水、食品に含まれるセシウムからの被曝の合計が年1 mSv以下になるように制限されています。このため、食品に含まれるセシウムは100ベクレル/Kg、乳児用食品、牛乳50ベクレル/Kg、飲料水10ベクレル/Kgが限度となっています。WHOによる国際基準も欧米の基準もすべて1000ベクレル/Kg以上であるので、いかに厳しい基準かが分かるでしょう。それまでの暫定基準が年5 mSvであったのを、当時の厚労大臣の政治判断で年1 mSvに決まったことは知られています。多くの生産者を苦しめ、経済的、社会的損害をもたらしている現基準を1日も早く廃止し、国際基準に戻していただきたいです。(中村)
放射線治療後の二次がん発生のデータを調べると、明らかにしきい値があります。子宮頸がん11855例では50グレイ以上では1%以下の頻度で二次がんが発生するが、それ以下では有意な発がんは見られない。このように放射線治療の分野でもLNT仮説は正しくないのです。英国および日本の原子力施設での放射線作業者、それぞれ17 万人および18万人の低線量長期被曝の調査でも発がん死亡率は増加していません。どちらかと言えば、放射線作業者の人たちの寿命は一般人よりも長いのです。低線量率の長期間の放射線被曝で容認される健康被害を受けない生涯線量は、放射線作業者で1000mSv、一般人で500mSvだと考えられます。(中村)
各国の政府は問題を地域の政治的事項と見なしていますが、この問題は全く国家的なものではありません。解決策は単純ですが達成するのに時間を要します。社会は押付けでなく説明する教育によって放射線を理解する必要があり、そうすれば真の信頼を取り戻すことができるのです。人々は、確信をもって核エネルギーを過剰な化石燃料に対する解決策であると見るでしょう。競争が支配するダーウィンの世界では、さまざまな機会をとらえ幅広い教育に投資しない社会は、そうする他の社会と比べ破綻を予想するべきです。(アリソン)
参加者の一致した意見「福島帰還は可能」
総合討論では、震災元年の11年から継続する20km圏内の線量調査の模様を記録したビデオ上映の後、元浪江町町議会議長で浪江和牛改良友の会および復活の牧場の代表である山本幸男氏が現地の実情を語りました。
相馬野馬追の郷大将を務めている山本さんは飼育していた馬は連れ出すことが出来ましたが、家畜の牛たちは、20km圏外へ救出する許可を求めましたが、国に否定されています。
牛たちを牛舎の外へ放ち、救いました。しかし、それが出来なかった牛たちは餓死しました。また、生存できた牛たちは、事故対策本部の決定により、親牛ばかりか子牛までもが凄惨な殺処分になってしまったのでした。避難先から、牛を見に来た4月9日に、浪江に調査に来ていた高田教授に出会い、翌2012年の正月から連絡を取り合い、牛を含めた放射線調査が始まりました。牛たちは元気です。
座長の高田から20km圏内の年間線量が4年間で大幅に低下している事実と2014年の浪江の低線量(年間線量は多くが10mSv未満、一部で1mSv以下)について、健康リスクになるかどうかの判断を5人の科学者に質問したところ、全員が「リスクなし、帰還できる」と回答しました。
科学者からの提言
科学会議SAMRAI2014の最後に、5人の科学者の報告をまとめ、次の7項目の日本政府への提案が発表されました。
1・福島県民の低線量率放射線の事実と住民に健康リスクがないことの科学理解を、国内外へ普及するために、日本政府は最大限努力する。
2・全ての国民、そして特に福島県で強制避難している人たちに正しい放射線の情報と科学が届くように、科学講習が受けられる環境を整えること。
3・政治的判断で強制された食品中の放射能の基準を、前原子力安全委員会の指標による基準に戻すこと。
4・福島20km圏内の放射線の線量の現実的な評価をするために、専門科学者および、あるいは放射線管理官が個人線量計を装着した形で、住民のように住宅に滞在したり、暮らすことが許可されるべきである。
5・福島第一原子力発電所20km圏内のブラックボックス化した状況をあらため、浪江町で継続する和牛の飼育試験の民間プロジェクト等の帰還へ前向きな取り組みを国としても認識し、支援すること。
6・福島第一原子力発電所20km圏内の地震津波で破壊されたインフラの早期な復旧を実現し、帰還希望者の受け皿を整えること。
7・日本の原子力施設は適切な改善がなされた後、可能なかぎり迅速に再稼働されるべきである。
高田純博士 札幌医科大学教授、SAMRAI2014プログラム委員長
モハン・ドス博士 フォックスチェイス・キャンサー・センター准教授
服部禎男博士 元電力中央研究所理事
中村仁信博士 大阪大学名誉教授
ウエイド・アリソン博士 オックスフォード大学名誉教授
2015年3月