アルバイトが時給1500円になるための方法

松本 孝行

前回、「アルバイトが「時給1500円」になれば日本は復活する」という記事を書かせてもらいましたが、やはり多くの人が興味を持っているようで、堀江さんをはじめNewsPicksでかなり多くの意見・言及を頂きました。中嶋さんの記事はアゴラに転載されても多くの人が見ているようです(マクドナルドの「時給1500円」で日本は滅ぶ。

前回の記事で書かせてもらったように、強制的に1500円に時給を増やす場合、方法は正社員やパート・アルバイトから取り上げてお金の配分を変えるしかありません。しかしそれでは現実的ではありませんので、アルバイトが今の給料から時給1500円を超えるだけのお金を稼げるようになるための具体的な方法を考えてみましょう。


今回はファーストフード店の従業員を中心とした人たちが、時給1500円デモに参加したようですが、ファーストフードを始めとして多くの非正規雇用は単純労働です。知恵やアイデアなどを活かしてそれをお金に変えていくのではなく、毎日のオペレーション(店舗運営)を滞り無く行うことが求められています。

こういった単純労働のポイントの一つは生産性をあげたところで報酬は変わらないということです。例えば1分でハンバーガーが1つ作れていたものが、1分で1.5個ハンバーガーが作れるようになったとしても、報酬は1.5倍になりません。時給900円ならどんなに早く、上手にハンバーガーを作れたとしても900円でしかありません。頑張りが報酬に反映しないのが特徴です

よく能力をつけて生産性をあげて、市場価値を高めることで収入を増やすことができると言います。しかしこれは単純労働には当てはまりません。どんなに早くコンビニのレジで客を捌けたとしても、時給は変わらないのです。キャリアアップの道もありません。

この前提から考えて導き出せる答えは三つです。

  • 長時間労働をする
  • 団体交渉をして時給を上げる
  • 転職する

この三つしか理論的にはありえません。

一つ目が長時間労働です。人が8時間働いていたら、自分は10時間、12時間働けば人よりも多くの収入を得ることができます。絶対額は増えるでしょう。しかし収入が増えても結局自分自身の生産性は上がらないし、時給は変わりません。若いうちはいいですが、年をとってから長時間労働をして稼ぐのは肉体的に厳しくなっていく可能性は高いと思われます。

二つ目が団体交渉です。毎年行われている春闘のように、団体交渉を行えば時給を増やしてもらえる可能性はあります。とは言え団体交渉で増やしてもらえる収入はたかが知れています。春闘では非正規雇用の時給ベースアップは37円を要求したそうです(参照)。時給1500円になるには程遠い金額しか収入増は望めません。

三つ目が転職です。転職と言っても条件があります。生産性を上げれば収入が上がるような職業、もしくは単価の高い職業に転職することです。営業で売れば売るほど歩合給が入ってくるような仕事、キャリアアップへの道が見えている職業、もしくはキャバクラのようなナイトワークや薬剤師のような時給単価の高い職業です。これらの職業なら時給1500円を超える収入になるでしょう。

おそらく日本ではインフレが急速に進まない限り、ファーストフード店のアルバイトが時給1500円をもらえるようになることはないでしょう。インフレを待つのもいいですが、結局時給1500円になっても物価も同じように上がっているので生活は楽にはなりません。

「給料が低い」「時給1500円にして欲しい」その気持ちはわかります。私もお金はあるに越したことはありませんし、もらえるものは貰いたいと思っています。しかし、そのためにはやはり大原則としてお金はどこかから降ってくるものではないということを理解しなければなりません。そして企業もやはり空からお金が降ってきて売上が上がっているわけではないのです。

アルバイトの給与は売上から出ます。そしてその売上から給与に回せる金額というのは決まっており、配分を変えるにはどこかを減らすしかありません。ちなみに資本家・経営者の報酬を配分しろという意見もありますが、先日退任した原田元会長の退職金3億円をマクドナルドのクルー10万人に配分したところで、一人あたり3000円の配分にしかなりません。時給に換算すれば2円程度のアップにしかならないのです。

もし本当に自分の生活を豊かにしたい、時給1500円にしたいと考えているなら、単純労働を抜けだして自分の価値を市場に認めてもらうしか方法はないのではないでしょうか。転職でも起業でも独立しても構いません。最初は給与がアルバイトを下回るかもしれませんが、20代30代ならそこからスキルや経験を身につけて、収入を増やしていける可能性はあるでしょう。

もちろんそういうスキルも経験もないし、リスクをとりたくないという人もいるでしょう。それならば2番目の団体交渉で少しでも配分を増やしてもらえるように交渉するしかありません。結局時給1500円は夢のまた夢ですし、自分自身の時間を切り売りする労働からは抜けられません。

少なくとも職業選択の自由が日本にはあります。蜘蛛の糸も何本も垂れています。今の状況のままでいるか、蜘蛛の糸から選んで上に登るかは自分自身が選択するしかないのではないでしょうか。