日本経済に明日はあるのか

アベノミクスの効果は、おおむね出尽くしたといえよう。その結果も、著者のいうように、ほぼ教科書的な経済学の予想どおりだった。

  • 短期:日銀の量的緩和の効果はほとんどなかったが、円安の効果は大きかった。
  • 中期:財政再建は絶望的になり、社会保障の負担が激増する。
  • 長期:人口減少によって世代間・地域間の格差が拡大する。

政治家やマスコミは短期の効果ばかり見ているが、「インフレ目標でデフレを脱却すれば日本経済に明日がある」というアベノミクスはもともと幻想であり、2年たってそれが幻想であることが証明されただけだ。インフレ率も成長率もほぼゼロになり、経済効果は円安の影響だけだ。


これによって輸出企業の収益が上がる一方で労働者が貧しくなったのは当然で、インフレや円安は家計から企業への所得移転なのだ。これは短期的には景気がよくなったような錯覚を与えるが、潜在成長率はゼロになり、交易条件は大幅に悪化した。これは世界の中で見ると、日本人が貧しくなったことを示す。

日本経済の最大の課題は「デフレ脱却」でも「成長戦略」でもない。著者のいう人口オーナスである。日本が世界史上まれに見る高度成長を遂げた最大の原因は、労働人口の急速な増加による「人口ボーナス」だったが、これからは逆の人口オーナスが起こる。これは高度成長のフィルムを逆転するような現象である。

終戦直後には所得格差が労使紛争の原因になったが、これは成長によって全員が豊かになることで解決した。人口ボーナスによって若者が都市に集中したが、地方との格差は成長の果実を地方にばらまく公共事業で埋めることができた。しかし今後、実質成長率がほぼゼロ(あるいはマイナス)になると、この逆が起こる。

正社員と非正社員の格差が拡大し、都市と地方の格差が拡大して、多くの地方自治体が消滅する。さらに高齢化で国民負担率が上昇し、現役世代の可処分所得が絶対的に減少する。明日は今日より貧しくなる時代が来るのだ。かつて成長がすべての問題を解決したとすれば、これからは貧困がすべての問題の原因になるだろう。